食物繊維

dietary fiber

食物繊維とは、野菜や果物、海藻、キノコなどに多く含まれる第6の栄養素とも呼ばれる成分です。
人間の消化酵素では消化されず、腸内では老廃物の運搬係として働き、不要な物質を体外へ排出する役割があります。また、コレステロール値低下作用や糖質の吸収抑制作用など、様々な生理機能を持つ優れた成分です。

食物繊維とは?

●基本情報
食物繊維とは、野菜や果物、海藻、キノコなどに多く含まれる第6の栄養素とも呼ばれる成分です。
食物繊維は、「人間の消化酵素で消化されない食事中の難消化性成分の総体」と日本では定義されています。
植物は、光合成によって炭酸ガスと水から炭水化物をつくり、動物はそれを食べることで生存・成長の栄養源とします。食物繊維は、草食動物であれば消化・吸収し、利用することができますが、人間は利用することができず、体の構成成分やエネルギー源としての役割が期待できないため、以前は無益な成分とされていました。
しかし、近年、様々な生理作用や機能が明らかになり、食物繊維の働き・効果が注目されるようになりました。
また、食物繊維の定義には当てはまらないものの、食物繊維と類似した作用・機能を持つ食品成分も新たに明らかとなり、食物繊維の定義自体を改めようとする動きもあり、食物繊維の定義は国により異なっています。
ほとんどの食物繊維は、炭水化物(糖質)ですが、一部には、キチン・キトサンなどのように動物性の食物繊維も存在しています。
食物繊維は、水に溶ける「水溶性食物繊維」と、水に溶けない「不溶性食物繊維」に大別されます。それぞれ体内での働きは異なっています。

●食物繊維の歴史
食物繊維の歴史は古く、古代ギリシャにまでさかのぼります。この頃から小麦ふすま[※1]は便秘予防に良いことは知られていましたが、食物繊維は吸収されない、必要な栄養素まで排出する食べ物のカスだと考えられていました。
1930年代になって、アメリカの医学博士ケロッグが小麦ふすまに関心を持ち、便秘患者や大腸炎患者への影響を確認しました。その後1953年にイギリスの医師ヒップスレーが「dietry fiber(ダイエタリーファイバー)」という言葉を最初に導入しました。
1960年代に入ってからアフリカで医療活動をしていた医師たちによって、西欧諸国に多くみられる大腸疾患などの病気がアフリカで少ないのは、食生活の違いが原因ではないかと考えられ、さらに研究が進められました。1972年、イギリスの医師バーキットによって、欧米諸国に住む人と、アフリカ原住民の統計的な医学上の比較研究が発表されました。これは、欧米などの先進国では心臓病や糖尿病などが急速に増えているのに対し、アフリカの原住民はこれらの病気にかかる割合が低く、その背景には繊維質の摂取が関わっているという研究でした。この発表は、食物繊維の働きが世界的に注目されるきっかけとなったのです。
日本でも従来は無用の老廃物程度の認識しかされていませんでしたが、1997年に公表された「五訂日本食品標準成分表」 [※2]では、これまで炭水化物のうちの「繊維」としてきたものを、新たに「食物繊維」として独立させ、それぞれの食品ごとに「総量」「水溶性」「不溶性」を明示することになりました。
近年、食物繊維における難消化性ゆえの効果に関する研究が進み、現在では炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素に続く6番目の栄養素として重要視されるほどになりました。

●食物繊維の分類とその働き
食物繊維は大きく分けると水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維の2種類に大別されます。
水溶性食物繊維は、果物などに多く含まれるペクチンや、こんにゃくに含まれるマンナンなどがあり、水分を吸収してゲル化[※3]し、摂取した食品の胃での滞留時間を長くさせる働きがあります。また、糖質の吸収を抑制するため、血糖値の上昇を緩やかにします。コレステロールの吸収も妨げ、体外に排出されやすくする働きもあるため、糖尿病や脂質異常症の予防、症状改善に役立ちます。
不溶性食物繊維は、ごぼうなど繊維の多い野菜に含まれるセルロースや、カニの殻に含まれるキチンなどがあり、飲み込んだ時の形をほとんど変えることなく腸まで達します。そして水分を吸収して膨張し、腸を刺激してぜん動運動[※4]を盛んにするため、摂取した食品の通過時間を短縮させます。さらに便の排泄を促す作用もあり、腸内環境を改善する効果があります。

●食物繊維の摂取基準
食物繊維は、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、国民健康・栄養調査[※5]の結果をもとに一般的な日本人の食物繊維摂取量が少ないことを考慮され、成人の食物繊維目標量を男性では1日20g以上、女性では1日18g以上としました。
しかし、毎日の排便のためには1日20g、また心筋梗塞による死亡率の低下が観察された研究では1日24g以上と報告されており、日本人は食物繊維が日常的に不足しているため、目標量より多く摂取する必要があります。
また、過剰症はないと考えられていますが、まれに下痢症状を起こす場合があります。

<豆知識>人工的につくられた食物繊維
食物繊維には、人工的につくられたものもあり、その代表的なものはポリデキストロースという水溶性の食物繊維です。飲料などの加工食品に広く利用されており、食品由来の水溶性食物繊維と同様の生理作用を持ちますが、分子量が小さいため、天然の食物繊維を比較するとその作用は弱いと考えられています。
そのため食物繊維は天然のものから摂取する方が良いといわれています。

[※1:小麦ふすまとは、小麦粒の表皮部分で、食物繊維や鉄、カルシウムなどが豊富に含まれています。]
[※2:五訂日本食品標準成分表とは、文部科学省科学技術・学術審議会・資源調査分科会が調査して公表している日常的な食品の成分に関するデータをまとめたものです。]
[※3:ゲル化とは、ヌルヌルとした粘性が凝固したもののことです。]
[※4:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
[※5:国民健康・栄養調査とは、健康増進法に基づいて厚生労働省が行う全国調査のことで、国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基礎資料を得ることを目的とされています。]

食物繊維の効果

●腸内環境を整える効果
食物繊維は、水溶性・不溶性ともに腸内の環境を整える効果があります。
水溶性食物繊維は、水に溶けゲル化し、人間の体に好ましくない物質の吸収を妨げ、便として排泄させる働きがあります。
不溶性食物繊維は、水には溶けませんが、水分を含んで膨張し、それによって腸を刺激することでぜん動運動を盛んにするため、食べ物の残りカスをすみやかに体外に排出する働きがあります。
食物繊維は水溶性・不溶性ともに、腸内に溜まった不要な老廃物を体外へ排出する働きを持つ上、善玉菌を増やす作用もあるため、腸内の環境を整える効果があり、特に便秘症には効果的な成分です。【1】【4】

●コレステロール値を下げる効果
水溶性食物繊維には、コレステロール値を低下させる効果があります。
詳しいメカニズムはまだ解明されていませんが、特にこんにゃくに含まれるマンナンやペクチンなどゲル状になりやすい食物繊維を摂取することで、便への胆汁酸の排泄量を増やす働きがあります。胆汁酸とは、脂肪の消化・吸収に関わり、肝臓でコレステロールを原料につくられます。水溶性食物繊維は、胆汁酸の排泄を促進する働きがあるため、コレステロール値を下げる効果があるといえます。
また、不溶性食物繊維のリグニンとヘミセルロースにも血中のコレステロールを下げる働きがあるといわれています。【2】【3】【5】

●糖尿病を予防する効果
水溶性食物繊維は、水に溶けるとゲル化し、胃から小腸への食べ物の移動を緩やかにします。そうすることで、糖質の吸収速度を緩慢にし、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐ働きがあります。
糖尿病は、血糖を利用するために必要なインスリン[※6]が不足することによって起こる病気ですが、血糖の上昇がゆるやかであればインスリンが無理なく作用し、不足することがなくなります。現代人は脂質や糖質の過剰摂取によってインスリンの産生に負担をかけ、インスリン不足となることから糖尿病が多いと考えられています。
水溶性食物繊維は、糖質の吸収速度を緩慢にするため、インスリン産生に負担をかけないように働くことで糖尿病を予防する効果があります。【3】【5】

●高血圧を予防する効果
水溶性食物繊維の中でも、高血圧を予防する効果は特にアルギン酸に顕著に現れます。
アルギン酸は食品中ではカリウムなどのミネラルと結合していますが、胃酸の影響を受けカリウムを放し、小腸でナトリウムと結び付き排泄されます。胃でアルギン酸から離れたカリウムは腸から吸収され、血液中のナトリウムを体外へ排出する役割を持ちます。
水溶性食物繊維はナトリウムを体外へ排出するため、血圧を下げ、高血圧を予防する効果があります。【6】

●肥満を予防する効果
不溶性食物繊維を多く含む食品は、口の中でよく噛む必要があり、早食いによる過食を防ぐ役割があります。
咀しゃく回数が増えることで唾液の分泌量が増し、満腹感を得やすくなるのです。また、消化されないため、胃の中での滞在時間が長く、満腹感を長時間得られるため、肥満を予防する効果があるといえます。【7】

[※6:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]

食物繊維は食事やサプリメントで摂取できます

食物繊維を含む食品

○野菜類
○果物類
○海藻類
○キノコ類
○豆類

こんな方におすすめ

○腸内環境を整えたい方
○便秘でお悩みの方
○コレステロール値が気になる方
○糖尿病・高血圧を予防したい方
○肥満を防ぎたい方

食物繊維の研究情報

【1】成人男女20,630名において、性別や摂取栄養素、ライフスタイルと排便回数との関係を調査した結果、食物繊維が多い人ほど、排便回数が多いことが確認され、食物繊維に腸環境を整えるはたらきが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14972075

【2】健常人67名において水溶性食物繊維の摂取量と血中コレステロールの関係を調査した結果、水溶性食物繊維を1日2-10g を摂取している人では、血中総コレステロールとLDLコレステロールの低下が確認され、食物繊維にコレステロール低下効果が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20394043
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9925120

【3】Ⅱ型糖尿病患者13名に食物繊維を1日50g (水溶性25g、不溶性25g) 6週間摂取させたところ、食物繊維を多く摂取した人では空腹時血糖値と尿中糖分値が減少し、総コレステロールとトリグリセリド、VLDLコレステロールの減少が見られたことから、食物繊維に糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10805824

【4】英国人220名を対象に、食物繊維摂取量と便通回数と大腸疾患の関係を調査したところ、食物繊維を1日18g 摂取すると、適度な便通を促すことにより大腸疾患の予防に役立つと示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1333426

【5】高コレステロール血症ラットに食物繊維を18週間摂取させたところ、血糖値や高コレステロール血症の改善が見られ、食物繊維に高コレステロール血症予防ならびに糖尿病予防効果と動脈硬化があることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7627263

【6】高血圧患者65名において、食物繊維を1日当たり7g 、3カ月間摂取させたところ、
拡張期血圧と空腹時インスリンが低下したことから、食物繊維には高血圧予防効果とインスリン抵抗性改善効果があると示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1313484

【7】肥満小児において、食物繊維を1日当たり1.5g を4週間させたところ、体重減少効果が見られました。食物繊維に抗肥満効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2826563

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参考文献

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・Sanjoaquin MA, Appleby PN, Spencer EA, Key TJ. 2004 “Nutrition and lifestyle in relation to bowel movement frequency: a cross-sectional study of 20630 men and women in EPIC-Oxford.” Public Health Nutr. 2004 Feb;7(1):77-83.

・Li J, Sun YM, Wang LF, Li ZQ, Pan W, Cao HY. 2010“Comparison of effects of simvastatin versus atorvastatin on oxidative stress in patients with coronary heart disease.” Clin Cardiol. 2010 Apr;33(4):222-7.

・Chandalia M, Garg A, Lutjohann D, von Bergmann K, Grundy SM, Brinkley LJ. 2000 “Beneficial effects of high dietary fiber intake in patients with type 2 diabetes mellitus.” N Engl J Med. 2000 May 11;342(19):1392-8.

・Cummings JH, Bingham SA, Heaton KW, Eastwood MA. 1992 “Fecal weight, colon cancer risk, and dietary intake of nonstarch polysaccharides (dietary fiber)” Gastroenterology. 1992 Dec;103(6):1783-9.

・Brown L, Rosner B, Willett WW, Sacks FM. 1999 “Cholesterol-lowering effects of dietary fiber: a meta-analysis.” Am J Clin Nutr. 1999 Jan;69(1):30-42.

・Hozumi T, Yoshida M, Ishida Y, Mimoto H, Sawa J, Doi K, Kazumi T.1995 “Long-term effects of dietary fiber supplementation on serum glucose and lipoprotein levels in diabetic rats fed a high cholesterol diet.” Endocr J. 1995 Apr;42(2):187-92.

・Eliasson K, Ryttig KR, Hylander B, Rössner S. 1992 “A dietary fibre supplement in the treatment of mild hypertension. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial.” J Hypertens. 1992 Feb;10(2):195-9.

・Gropper SS, Acosta PB. 1987 “The therapeutic effect of fiber in treating obesity.” J Am Coll Nutr. 1987 Dec;6(6):533-5.

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