乳酸菌

lactic acid bacteria

乳酸菌とは、糖類を分解して乳酸をつくり出す細菌の総称で、その種類は200種類以上にもなります。
人間の腸内にすみつくことができる細菌で、チーズやヨーグルトなどの発酵食品に多く含まれていることで知られています。
腸内環境を整える効果や免疫力を向上させる効果、コレステロール値を低下させる効果など様々な生理作用を持ちます。
また、花粉症の抑制にも効果的な働きがあります。

乳酸菌とは

●基本情報
乳酸菌とは、糖類を分解して乳酸を50%以上つくり出す細菌の総称で、その種類は200種類以上にものぼります。
乳酸菌はその形状から、球状の「乳酸球菌」と棒状の「乳酸桿菌」に大別され、そこから属や菌株[※1]などによってさらに細かく分類されます。
乳酸菌は人間の腸内にも存在しており、腸は乳酸菌がつくり出す乳酸によって腸内を酸性に保つことで、腸内環境を整え健康を保っています。
乳酸菌は自然界のどこにでも存在する細菌ですが、人間の腸内に棲む乳酸菌は他の動物の腸内では生育することができません。
このように、人間の腸内に棲む種類と、動物の腸内に棲む種類はそれぞれの腸内環境に適して異なっているものと考えられます。
人間の腸内にはおよそ100種類、100兆個以上の腸内細菌が棲みついており、善玉菌と悪玉菌が常に勢力範囲を争っています。
​善玉菌が優勢を保っている時は腸の調子が良く、劣勢になった時は便秘などが症状として現れます。
大腸は空気(酸素)のほとんど無い嫌気的な状態といわれており、酸素が存在する環境では生育しにくいビフィズス菌をはじめとする菌が約90%を占めています。​ヘテロ乳酸菌と分類されるビフィズス菌も含めて、ほとんどの乳酸菌は酸素がなくとも生き続けられますが、酸素があっても死ぬことはありません。
健康な乳幼児の腸内では乳酸菌などの善玉菌が90%以上を占めていますが、年齢とともにその数は減少すると考えられています。また、ストレスや食生活などによっても善玉菌の割合は減少すると考えられています。
そのため、生きた乳酸菌などの善玉菌を摂取する、または乳酸菌などのエサとなるオリゴ糖や食物繊維などを摂取し、腸内で善玉菌を増やすように働きかけることが必要です。
乳酸菌は様々な発酵食品をつくる上で必要不可欠な存在で、遠い昔から人間の食生活に深い関わりを持っています。それぞれの特徴を活かして、乳酸菌飲料や発酵乳、チーズなどの乳製品をはじめ、味噌、醤油、漬物など様々な食品に役立てられています。
このように乳酸菌は風味や保存性という点で多くの食品に使用されており、古くから人々の生活に役立っていたのです。

●乳酸菌の歴史
乳酸菌の歴史は古く、17世紀頃にはオランダのレーウェンフックが手製の顕微鏡をつくり、微生物の観察を始めた際には発見されていたと考えられています。
その後、「微生物学の祖」といわれるフランスのパストゥールが乳酸発酵の観察をしており、同じ頃、ドイツのコッホが純粋培養法を創案し、1899年にパストゥール研究所のティシエが、赤ちゃんの便より腸内細菌を分離することに成功しました。
​この時分離された細菌は、現在のビフィズス菌だということが後ほど明らかになります。
翌1900年にオーストリアのモローが赤ちゃんの便よりアシドフィルス菌[※2]を分離したことが確認され、急速に乳酸菌の特定に関する研究が進みました。
その後、パストゥール研究所のメチニコフがヨーグルトをよく食べるブルガリア人に長寿者が多いことから、ヨーグルトを食べることで、その中に含まれる乳酸菌が腸管内で繁殖し、毒素をつくる腐敗菌の増殖を抑えるため早期の老化を防ぐことができるのではないか、という乳酸菌による不老長寿説を提唱しました。
メチニコフはその後、1908年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
日本では、光岡知足が1950年代から腸内細菌に関する研究をはじめ、微生物と健康に関する研究を進めていきました。
乳酸菌には様々な種類がありますが、1993年に京都のパスツール研究所で、すぐき漬け[※3]から発見されたラブレ菌は酸や塩分に強いため、生きたまま腸へと届く菌として、また人間の免疫に関係するインターフェロン[※4]の生成を促進する働きを持つ菌として非常に興味深い乳酸菌であり、様々な健康効果が期待できる菌だといえます。

●乳酸菌を増やす方法
乳酸菌を増やす方法として、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」という2つの方法があります。
「プロバイオティクス」とは、体に有益なビフィズス菌やラブレ菌などの乳酸菌を摂取することをいいます。ラブレ菌やビフィズス菌の配合された商品は特定保健用食品(トクホ)[※5]に認定されているものもあり、プロバイオティクスとしての働きが認められている細菌です。プロバイオティクスの作用は、腸内環境の改善や免疫力の向上、アレルギーの抑制など多岐に渡ります。
「プレバイオティクス」とは、腸内細菌の栄養源となって健康に役立つオリゴ糖などの成分を摂る方法です。
どちらが良いということはありませんが、どちらも行う方がより効率良く腸内で乳酸菌を増やすことができるとされています。

<豆知識>悪玉菌を増やす原因
悪玉菌が優勢の腸内環境になる主な原因は、偏った食生活やストレス、病気や抗生物質の使用があります。
特に肉食中心の生活が続くと、悪玉菌の栄養源であるたんぱく質や脂質の摂取量が増え、腸内環境はアルカリ性になります。
野菜に含まれる食物繊維は、腸内で善玉菌のエサとなり善玉菌を増やす効果があるため、腸内環境を健康に保つには普段の食事に積極的に取り入れる必要があります。

[※1:菌株とは、細菌の最小単位を指します。微生物の単一種が一定量まとまって生育している状態です。]
[※2:アシドフィルス菌とは、腸内に常駐する乳酸菌の一種です。]
[※3:すぐき漬けとは、京都の伝統的な漬物で、かぶの一種である酸茎菜(すぐきな)を塩で漬け込んでつくられる漬物です。]
[※4:インターフェロンとは、体内にウイルスや病原菌などの異物が侵入すると、分泌されるたんぱく質のことです。免疫力を高めたり、異物の増殖を抑える効果を持っています。]
[※5:特定保健用食品(トクホ)とは、特定の保健の目的が期待できることを表示した食品のことです。身体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分(関与成分)を含んでいます。その保健効果が当該食品を用いたヒト試験で科学的に検討され、適切な摂取量も設定されています。また、その有効性・安全性は個別商品ごとに国によって審査されています。]

乳酸菌の効果

●腸内環境を整える効果
乳酸菌は一般的に腸内の環境を整える効果があるとされています。
腸内に入ることで糖質から乳酸をつくり出し、腸内を酸性に保つ働きがあります。腸内には乳酸菌などの善玉菌とウェルシュ菌[※6]などの悪玉菌が存在していますが、悪玉菌は酸に弱い性質を持つため乳酸菌がつくり出す乳酸によって死んでしまいます。
腸内で悪玉菌が増殖すると、毒素が悪玉菌によってつくられます。
その毒素は腸に直接的にダメージを与えるため、便秘や下痢、また大腸ガンなどの病気の原因にもなるといわれています。腸は善玉菌が優位にいる場合酸性を保っていますが、食生活やストレスなどの影響で悪玉菌が優勢になるとアルカリ性になります。
乳酸菌は、腸内で乳酸をつくり出し酸性に保つ働きがあるため、腸内環境を整える効果があります。【2】【3】【8】【11】

●免疫力を向上させる効果
乳酸菌は悪玉菌が増えるのを抑え腸内環境を整えることから、免疫力を高める効果があるといわれています。
腸内で悪玉菌がつくり出す毒素は、腸壁から吸収され全身に回ると、生活習慣病やその他様々な病気の原因となります。
また、乳酸菌の一種であるラブレ菌はインターフェロンの生成を促進し、それによって免疫細胞であるナチュラルキラー(NK)細胞[※7]などを活性化させる働きがあるため、免疫力の向上には特に効果的であるといわれています。
●アレルギー(花粉症)を抑制する効果
乳酸菌には、アレルギーを抑制する効果があるといわれています。
アレルギーとは、体の免疫機能のバランスが崩れてしまうことで、体が特定の物質に過剰に反応してしまう状態をいいます。
アレルギーを持つヒトの腸内細菌を調べると、善玉菌の数が健康な方よりも少ないことが明らかとなっています。
このことから、免疫のバランスを正常な状態に整える働きがあるとして、ビフィズス菌はアレルギーに効果があるとされており、特に花粉症には効果的だとされています。【5】【9】
>>花粉症について わかさ生活 みらい研究所(外部リンク)

●コレステロール値を低下させる効果
乳酸菌は、動脈硬化などの原因であるコレステロール値を低下させる効果があるといわれています。
動脈硬化とは、コレステロールや中性脂肪が溜まってしまうことで、血管が硬くなり弾力性や柔軟性を失った状態のことです。
そしてこの状態が続くと、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす原因になってしまいます。
乳酸菌には、コレステロール値を下げることで、動脈硬化や心筋梗塞などの疾病を予防する効果があるといわれています。【7】
●美肌効果
便秘になると、肌が荒れるということは一般的に知られていますが、それは腸内で増殖した悪玉菌が出す毒素が影響しています。毒素は腸壁から吸収されることで、栄養とみなされ、肌へ運ばれます。これによって、肌荒れが起こってしまうのです。
乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑える働きがあるため、美肌づくりにも効果的な成分です。

●貧血を予防する効果
貧血は、鉄の不足はもちろんですが、ビタミンB12が不足することによっても起こります。ビタミンB12は、正常な赤血球をつくるために必要な栄養素のため、不足すると赤血球がうまくつくられず、貧血となってしまうのです。
乳酸菌は、腸内でビタミンB群を合成し、その一部が体に吸収され利用されることから、貧血にも効果的だと考えられています。

[※6:ウェルシュ菌とは、人間や動物の腸管、土壌、水中など広く自然界に分布している、酸素を嫌う細菌のことです。ウェルシュ菌が増えることで、腸内の環境が悪くなり、便秘や下痢の原因になります。]
[※7:ナチュラルキラー(NK)細胞とは、リンパ球に含まれる免疫細胞のひとつで、生まれつき(ナチュラル)外敵を殺傷する(キラー)能力を備えています。ガン細胞やウイルス感染細胞などの異常細胞を発見して退治してくれます。]

乳酸菌は食事やサプリメントで摂取できます

乳酸菌を含む食品

○ヨーグルト
○チーズ
○漬物
○味噌
○醤油

こんな方におすすめ

○腸内環境を整えたい方
○免疫力を向上させたい方
○コレステロール値が気になる方
○アレルギー症状を予防したい方
○美肌を目指したい方
○貧血になりやすい方

乳酸菌の研究情報

【1】乳酸菌などの善玉菌を摂取するプロバイオティクスは、炎症性サイトカイン、インターロイキン(IL)-6および腫瘍壊死因子(TNF)-αの産生が増加させるということがわかっています。様々なプロバイオティック株によって免疫調節の発現は異なることがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22493544

【2】過敏性腸症候群に対して、ビフィダス菌MIMBb75株の有効性が研究されています。結果として、ビフィダス菌MIMBb75株は過敏性腸症候群の症状を緩和し、同時に生活の質(QOL)の改善が見られました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21418261

【3】プロバイオティックは、下痢の期間や水っぽい便の回数を減らすという効果が知られています。プロバイオティクスの投与は、急性下痢症などに有益であるということが結論付けられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21118623

【4】ビフィドバクテリウム‐ビフィダムBF-1株は、ヘリコバクター・ピロリ誘発遺伝子の発現を抑制し、NF-κBシグナル伝達経路に関連すると認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20854986

【5】プロバイオティック(ビフィダス菌、ビフィズス菌、アシドフィルス菌)の補給が乳児の湿疹の発生を予防するかどうかが調査されています。妊娠中および生後に乳酸菌を補給しておくことは、乳児の湿疹の発生を防止するのに効果的なアプローチであると示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19840300

【6】ピロリ菌に感染している成人にピロリ菌除去の標準の治療法 (14日間) に加えてプロバイオティクスヨーグルト125 mL/日の摂取をさせたところ、口内炎や便秘などの治療時の副作用の症状が軽減したという報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20931422

【7】Ⅱ型糖尿病患者60名を対象とした二重盲検無作為比較試験において、プロバイオティックヨーグルト300 g (アシドフィルス菌、ビフィズス菌含む) を6週間摂取させたところ、総コレステロール値、LDLコレステロール値の低下が認められたという報告があり、心血管の疾患のリスクの改善に期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21700013

【8】過敏性腸症候群の患者40名を対象とした無作為比較試験において、アシドフィルス菌を4週間継続して摂取させたところ、腹痛や不快の自覚症状が改善したという報告があります。アシドフィルス菌は、過敏性腸症候群の患者に有効であると考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18274900

【9】アトピー性湿疹発症に対し、ビフィズス菌の投与によって、症状や発症の低減化がみられたという報告があります。アレルギーに対する予防と治療にプロバイオティクスが有用である可能性が示されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11069570

【10】ヒト腸管細胞における炎症反応を調節する乳酸細菌(LAB)の能力を調べた結果、フェカリス菌の特定の菌株が結腸の恒常性を維持し、炎症反応を調節するために腸内の粘膜免疫の調節を行う可能性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18286689

【11】ラクトバチラス‐ブレビスKB290が過敏性腸症候群の症状に及ぼす作用を検討した結果、過敏性腸症候群の進行の初期に役立つということがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22863114

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参考文献

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