ペプチド

peptide

ペプチドは、アミノ酸が数個つながった構造を持ち、アミノ酸とたんぱく質の中間の性質を持つ成分です。種類によって様々な健康作用が期待されます。ペプチドは、もととなるたんぱく質や食品の種類によって働きが異なり、魚類、牛乳など、それぞれ由来しているものにちなんだ名前がつけられています。

ペプチドとは

●基本情報
ペプチドとはアミノ酸が数個つながった構造を持つ成分で、大豆やイワシ、牛乳などのたんぱく質を分解してつくられるものが多くあります。
たんぱく質は、人間の体内で消化酵素によって分解され、細かくされてから吸収されます。たんぱく質はサイズが大きく、体内で消化吸収されるまでに、分解するのに時間がかかりますが、ペプチドはすでに分解されているため、すばやく効率よく体内に吸収されるといわれています。また、アミノ酸と比べてもペプチドは血液中をめぐる持続時間が長いため、速やかに体に吸収されその作用が持続するといわれています。
ペプチドは2個以上のアミノ酸のペプチド結合によってできた化合物で、アミノ酸の数によって、2個ならジペプチド、3個ならトリペプチドといい、2~10個程度の少数ならオリゴペプチド、10~100個と多数ならポリペプチドと分類されています。
ペプチドはアミノ酸の結合によってできた化合物を指し、その結合の仕方をペプチド結合といいます。

●ペプチドの種類
ペプチドは、もととなるたんぱく質や食品の種類によって働きが異なり、それぞれ由来しているものにちなんだ名前がつけられています。
現在では、大豆由来のものでは「大豆ペプチド」、魚由来のものでは「イワシペプチド、魚肉ペプチド」、牛乳由来のものでは「ミルクペプチド、ホエイ[※1]ペプチド」、などが知られています。各種ペプチドに含まれているアミノ酸の種類によって働きが異なります。
また、元のたんぱく質の名前にちなんだ呼び方をされるものもあり、コラーゲンペプチドは健康食品の原料としても有名です。

最近注目されている大豆ペプチドは、含まれているアミノ酸のバランスが良く、丈夫な体をつくったり、けがをした筋肉の修復につとめるという効果があります。
また、イワシペプチドは、血圧を安定させる働きが期待されています。イワシのたんぱく質には必須アミノ酸が多く含まれているため、高血圧を抑えて血圧を安定化します。
魚肉ペプチドには、アンチエイジング効果があることも期待できます。
継続的な魚肉ペプチドの摂取が生体内での酸化ストレスを軽減することが示され、このことは生活習慣病の予防につながると考えられています。
カゼインホスホペプチドは、牛乳が酵素によって分解されつくられるペプチドです。腸でのミネラルの吸収を助ける成分として働いています。
ホエイペプチドは、牛乳に含まれるたんぱく質を酵素分解して分子を小さくしたもので、分岐鎖アミノ酸(BCAA)と必須アミノ酸が豊富で、筋肉を合成する力が特長です。
ホエイたんぱく質とは、牛乳からカゼインや脂肪を取り除いた液体部分であるホエイに含まれるたんぱく質です。牛乳は2種類のたんぱく質に分けられ、牛乳からチーズをつくる際に、チーズとして固まるたんぱく質の約80%がカゼインで、残った搾り汁であるホエイに含まれる約20%がホエイたんぱく質です。

コラーゲンペプチドは、より効率よくコラーゲンが摂取できるように、研究開発されたものです。コラーゲンを小さく分解し、体内に吸収されやすく加工した高純度たんぱく質です。溶解性が高く、冷やしても固まりにくいので、飲料やスープなどにも混ぜることができる健康食品もあります。

[※1:ホエイとは、牛乳から乳脂肪分やカゼインを除いて残った水溶液のことです。]

ペプチドの効果

ペプチドは、もととなるたんぱく質や食品の種類によって働きが違います。各種ペプチドに含まれているアミノ酸の種類によって働きが異なるためです。植物由来の「大豆ペプチド」、魚由来の「イワシペプチド、魚肉ペプチド」、牛乳由来の「ミルクペプチド、ホエイペプチド」など、それぞれが異なった効果を発揮します。

●「大豆ペプチド」の疲労回復効果
大豆ペプチドの由来となる、大豆たんぱく質は必須アミノ酸をバランス良く含んでいるため、非常に良質であることが知られています。したがって運動による筋肉の損傷を素早く修復し、筋肉を効果的に増強するのに最適とされています。大豆ペプチドは脂質代謝を促し、筋肉へのエネルギー供給を満たすことで全身の疲労回復効果をもたらします。
人間が疲れると、エネルギー源となるグリコーゲン[※2]が低下します。大豆ペプチドは疲労回復効果が期待されています。ある実験で大豆ペプチドを投与したマウスに運動負荷による疲労を起こさせた後、どの程度運動能力が回復するかを試しました。その実験で、大豆ペプチドを投与することによる回復率の向上が確認されています。同時に実施された検討より、大豆ペプチドは脂肪組織での脂質代謝を促し、糖新生[※3]を誘発させること、さらに骨格筋[※4]での糖の取り込みを亢進させ筋肉へのエネルギー供給を満たすことで、筋肉の疲労回復を促進させることが推察されています。大豆ペプチドは吸収が速く、短時間でたんぱく質を補給したい時にパワーを発揮します。大豆ペプチドは効率のよいアミノ酸補給を通して体内のエネルギー効率に良好な効果をもたらし、疲れた体や弱った体を効率よく回復させることが示唆されてきています。【1】

●「イワシペプチド」の高血圧を予防する効果
イワシのたんぱく質には必須アミノ酸が多く含まれているため、高血圧を抑えて血圧を安定化させます。【2】【3】

●「魚肉ペプチド」の骨粗しょう症の予防効果
これまでの研究により、ラジカル消去効果や酸化ストレス低下作用などが確認され、魚肉ペプチドには、抗酸化効果があることが確認されました。抗酸化効果により細胞の損傷、骨粗しょう症を防ぎます。
これまでに魚肉ペプチドの抗酸化作用についてラジカル消去効果[※5]や酸化ストレス[※6]低下作用などが確認されてきました。加齢と医学の観点から魚肉ペプチド摂取がQOL[※7]レベルを向上させるか否かを検証するため、30~50歳の男女を対象としてアンチエイジング効果について検証がなされました。エストラジオール[※8]は増加する傾向が認められ、酸化ストレスのマーカーは減少する傾向を示しました。これらのことから魚肉ペプチドの摂取が骨粗しょう症を予防し、酸化ストレスを抑制する可能性があることがわかりました。【4】

●「魚肉ペプチド」の生活習慣病の予防・改善効果
動脈硬化症は、スーパーオキシドやヒドロキシラジカルなどの活性酸素種による酸化ストレスが要因のひとつだと考えられています。継続的な魚肉ペプチドの摂取が生体内での酸化ストレスを軽減することが示されました。これは生活習慣病の予防につながると考えられています。
加齢と医学の観点から魚肉ペプチド摂取がQOLレベルを向上させるか否かを検証するため、30~50歳の男女を対象としてアンチエイジング効果について検証がなされました。その結果、魚肉ペプチド摂取により血管年齢は46.8歳±13.2から40.6歳±12.2(-13.3%、p=0.066)に減少する傾向が認められました。高感度-CRPは減少する傾向がみられ、血清LPOは有意に減少したことから魚肉ペプチドの摂取が動脈硬化予防に関連していることが示唆されました。
血管年齢を若く保つことが、生活習慣病の原因である動脈硬化を防ぐことに役立つと考えられています。【4】

●「ホエイペプチド」の筋肉の修復・増強効果
ホエイたんぱく質は、体内で合成することのできない必須アミノ酸を多く含んでいます。必須アミノ酸とは、人間の筋肉を構成するたんぱく質を生成する重要な成分で、疲れた筋肉を修復し、増強する効果があります。
また、筋肉の疲労回復に働きかける効果があります。【5】

●「ホエイペプチド」の免疫機能を増強強化
ホエイたんぱく質は細胞を活性酸素の攻撃から守り、体内の免疫システムに働きかけるグルタチオンを増加させ、免疫機能を強化する効果があります。【6】

●「ホエイペプチド」のアルツハイマー病予防効果
加齢とともにグルタチオンが減少すると、アルツハイマー病の発症や老化の促進を招きます。グルタチオンは食品で摂取すると胃や腸からの吸収が悪いため、体内でグルタチオンを増加させるホエイたんぱく質がアルツハイマー病を予防すると推察され注目されています。

●「ホエイペプチド」の抗インフルエンザ効果・抗ウイルス効果・抗アレルギー効果
グルタチオンは、ウイルスや細菌などの異物から体を守ってくれる効果があるため、インフルエンザや様々なウイルスに対抗する働きやアレルギー症状の予防・改善も期待されています。【7】

[※2:グリコーゲンとは、糖がたくさんつながり、多糖類となった状態で肝臓や筋肉に貯蔵されている物質のことです。グリコーゲンはエネルギーが足りなくなった際にブドウ糖に変化するため、エネルギー源として大切な役割を持っています。]
[※3:糖新生とは、乳酸や糖原性アミノ酸を原料として動物が体内で糖(グルコース)を合成することです。]
[※4:骨格筋とは、全身の筋肉の約40%を占めている、骨格を動かす筋肉のことです]
[※5:ラジカル消去効果とは、活性酸素を除去する力のことを指します]
[※6:参加ストレスとは、酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用のことです。]
[※7:QOLとは、quality of life の略語で生活の質。どれだけ、心身ともに快適な生活を送ることを言います]
[※8:エストラジオールとは、女性ホルモン(エストロゲン)の一種で最も高い生理活性を持ちます。卵胞や黄体から分泌される女性らしい体つきを促進するホルモンのことです]

ペプチドは食事やサプリメントで摂取できます

ペプチドを含む食品

○大豆
○魚
○牛乳

こんな方におすすめ

○疲労を回復したい方
○血圧が高い方
○いつまでも若々しくいたい方
○筋肉を強化したい方
○生活習慣病を予防したい方
○免疫力を向上させたい方

ペプチドの研究情報

【1】閉経後女性において、安静時のエネルギー消費(REE)に関する大豆タンパク質摂取の影響を調べました。60名の女性に対しG1(運動+大豆タンパク質摂取)、G2(運動+プラセボ摂取)、G3(運動なし+大豆タンパク質摂取)およびG4(運動なし+プラセボ摂取)に分け、テストをおこないました(大豆たんぱく質は25g/日)。REEはG1(158kcal/日 17%)が最も高いことがわかりました。このことから、大豆の摂取と運動を一緒に行うことにより、安静時のエネルギー消費が高くなることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21152831

【2】自然発生高血圧ラットを対象に、イワシ(サーディン・sardine)のタンパク質酵素分解物(アミノ酸が数個つながったバリルチロシン)を20, 50 mg/kg の量で静脈注射したところ、血圧変化率(%)は収縮期血圧で3.9~9.9%減少し、拡張期血圧が22.6~28.0% 減少しました。この結果より、イワシペプチドが高血圧予防効果を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7549089

【3】ボランティア29名を対象にイワシペプチド抽出物を1日当たり4gの量で4週間摂取させたところ、最大血圧が9.3 mmHg、最低血圧が5.2 mmHg低下しました。イワシペプチドは血圧上昇酵素であるアンジオテンシン変換酵素Ⅰ(ACE)を阻害するはたらきをあることから、イワシペプチドは高血圧予防効果が期待されています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10009714420

【4】30~50代の成人男女を対象に、魚肉ペプチド食品を1日あたり3g を摂取させたところ、女性ホルモンであるエストラジオールが増加する傾向がみられました。加えて、血管年齢が改善され、高感度CRPならびに血清LPOが減少したことから、魚肉ペプチドは骨粗鬆症ならびに動脈硬化予防効果と生活習慣病予防効果を持つと考えられています。

【5】33名の健康な男性(73±2歳)を無作為に11名ずつ3グループに分け、L-[1-13C]フェニルアラニンで標識されたホエイタンパク質をそれぞれ10 g、20 g、35 g摂取させました。それぞれのグループでのホエイタンパク質の素早い消化・吸収が確認され、また、全身のタンパク質のバランスが改善されました。どちらも35 gの摂取において最も高い値が示されました。このことから、健康な男性において、35 gのホエイタンパク質摂取は、より高いアミノ酸吸収および筋タンパク質のデノボ合成を促進する効果があることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22338070

【6】生後直後のラットに母乳の代わりに牛乳濃縮ホエイタンパク質を摂取させ、効果を調査しました。生後間もないラットの粘膜の細胞は通常と同じ組成を示しました。ところが、ホエイタンパク質の投与1日後、上皮と粘膜層の両方においてナチュラルキラー細胞の割合が高まり、腸の上皮細胞のCD8alphaalpha+抗体の増加が確認されました。これらの結果から、牛乳濃縮ホエイタンパク質は乳児期における粘膜性の先天性免疫を高める効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17922966

【7】肝移植に伴う細菌を含む感染症による炎症に対する加水分解ホエイペプチド(HWP)について調べました。76名の肝移植後患者に対し、プラセボまたはHWPを術後24時間内に飲用させました。HWP飲用群の患者の細菌の発生率は、プラセボ群に対して有意に低いことがわかりました。また、術後7日後のグルコース濃度もHWP患者が低いことがわかりました。このことから、移植手術後のHWPの摂取は術後感染、高血糖を避けることができる可能性がわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22374545

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参考文献

・松井 利郎、川崎 晃一 (2000) “食品タンパク質由来機能性ペプチドによる血圧降下作用 : イワシペプチド (Var-Tyr) による降圧食品の開発を中心として” 日本栄養

・食糧学会誌:53(2), 77-85, 2000-04-10

・Trevisan MC, Souza JM, Marucci Mde F. (2010) “Influence of soy protein intake and weight training on the resting energy expenditure of postmenopausal women.” Rev Assoc Med Bras. 2010 Sep-Oct;56(5):572-8.

・Matsufuji H, Matsui T, Ohshige S, Kawasaki T, Osajima K, Osajima Y. (1995) “Antihypertensive effects of angiotensin fragments in SHR.” Biosci Biotechnol Biochem. 1995 Aug;59(8):1398-401.”

・Fumihiko Yoshino, Ayaka Yoshida, Shuta Sugiyama, Fumiaki Tokutomi, Chihiro Miyamoto, Yojiro Maehata, Kyo Kobayashi, Satoko Wada-Takahashi, Takashi Maetani, Eizo Okada, Yasue Okada, Tomoko Komatsu, Shun-Suke Takahashi, Jianrong Wan, Masaichi-Chang il Lee 2011 “Assessment of Anti-Aging Effects of Fish Products Peptide in Middle-Aged Subjects” ANTI-AGING MEDICINE. 2011 Vol. 8 (2011) No. 4

・Pennings B, Groen B, de Lange A, Gijsen AP, Zorenc AH, Senden JM, van Loon LJ. 2012 “Amino acid absorption and subsequent muscle protein accretion following graded intakes of whey protein in elderly men.” Am J Physiol Endocrinol Metab. 2012 Apr;302(8): E992-9.

・Pérez-Cano FJ, Marín-Gallén S, Castell M, Rodríguez-Palmero M, Rivero M, Franch A, Castellote C. 2007 “Bovine whey protein concentrate supplementation modulates maturation of immune system in suckling rats.” Br J Nutr. 2007 Oct;98 Suppl 1:S80-4.

・Kaido T, Ogura Y, Ogawa K, Hata K, Yoshizawa A, Yagi S, Uemoto S. 2012 “Effects of post-transplant enteral nutrition with an immunomodulating diet containing hydrolyzed whey peptide after liver transplantation.” World J Surg. 2012 Jul;36(7):1666-71.

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