バリン

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バリンは必須アミノ酸の一種で、筋肉を強化したり、疲労回復効果があります。また、成長を促進したり、血液の中にある窒素のバランスを調整する効果があります。バリンはロイシン、イソロイシンとともにBCAAと呼ばれ、運動時のエネルギー補給としてスポーツサプリメントなどに配合されています。

バリンとは?

●基本情報
バリンは体内で合成することができない必須アミノ酸[※1]の一種で、ロイシンイソロイシンとともにBCAA(分岐鎖アミノ酸)に分類されます。筋肉中のたんぱく質を構成するアミノ酸はBCAAの割合が多く、その中のひとつのバリンは、筋肉の強化に効果的なアミノ酸です。バリンはその他にも、体の成長を促進する働きや血液の窒素バランスを調整する効果、さらにはアンモニアの代謝を改善する効果、肌のハリを保つ効果など様々な効果を持ちます。
また、バリンは食欲不振の改善にも効果があるといわれており、医薬品として総合アミノ酸製剤に含まれています。その他、低たんぱく質血症や低栄養状態、手術前後のアミノ酸補給のために静脈注射や点滴などにも利用されています。

●バリンの歴史
バリンは1856年に、ゴルプ・ベサネッツにより膵臓の抽出物から発見されました。
その後、1879年にはシュッツェンベルガーによってたんぱく質の加水分解物[※2]より得られ、1906年にはフィッシャーによって化学構造が確定しました。
その後の研究により、バリンは筋肉を強化する効果を持つことなどが解明され、今日ではロイシン、イソロイシンとともにBCAAと呼ばれ、運動時のエネルギー補給としてスポーツサプリメントなどに配合されています。

●バリンを含む食品
バリンはレバーや子牛肉などの肉類、脱脂粉乳やプロセスチーズ、落花生に多く含まれています。バリンは体内で合成することができない必須アミノ酸です。必須アミノ酸は全部で9種類ありますが、どれか1種類でも不足していると十分に働くことができず、その結果、肝臓や腎臓の負担が増加することで免疫力の低下につながります。
バリンは、ウニの苦み成分として知られていますが、少しの甘みを持つことから、食品添加物としても利用されています。このようにアミノ酸の中には、バリンのように苦みを持つものや、アラニングルタミンなどのように甘みを持つもの、さらにグルタミン酸のように旨みを持つものがあります。
バリンをはじめとするアミノ酸は、味の調整のために用いられる調味料や、即席スープ、漬物などに用いられ、味にコクをつけるために昆布茶や合成酢にも活用されています。

●バリンの過剰症
バリンは、多くの食品に豊富に含まれているため、通常不足することはありませんが、体内で生成することができないため、推定平均必要量[※3]として成人で体重1kgあたり、1日26mg摂取することが求められています。
またBCAAはバリン、ロイシン、イソロイシンの3種類のバランスが保たれることで本来の効果を発揮するため、どれかひとつでも摂取が多くなると、体重の減少やブドウ糖の代謝[※4]、アンモニア排出の阻害を招く恐れがあります。
そのため、特定の食品からではなく、なるべく多くの食品からバリンを摂取すると、BCAAをバランス良く保つことができます。

●BCAAに分類されるバリン
筋肉のエネルギー源となる唯一の必須アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンの3種類のアミノ酸は分子に分岐構造を持つため、BCAA(分岐鎖アミノ酸)と総称されます。
BCAAは腸管で合成され筋肉に蓄えられ、エネルギー源となります。BCAAは人間の筋肉たんぱく質中に約35%含まれており、運動時のスタミナの維持や筋肉量の維持に効果がある重要な成分です。
BCAAは筋肉の疲労回復に働きかけるため、スポーツドリンクなどに配合され、運動時のエネルギー補給として活用されています。
またBCAAは運動時のスタミナ源になったり、筋肉の疲労を緩和するだけでなく、肝機能を改善する効果もあります。

さらに、バリンを含むBCAAは、脳にダメージを与えるアンモニアを無毒化するグルタミン酸を生成し、アンモニアの代謝を促進します。
アンモニアはたんぱく質の分解によって生じ、血液中に溶けて肝臓で無毒化された後、尿として体外へ排出されます。アンモニアが体内に蓄積されると、神経伝達物質[※5]の働きが阻害され、脳症などを引き起こしてしまいます。
また、アンモニアは細胞の中に入りこみ、エネルギーをつくり出す器官であるミトコンドリアの働きを衰えさせます。そのため、アンモニアの量が過剰に増えることで、エネルギーがうまくつくり出せず、疲労の蓄積や組織の老化、免疫力の低下まで引き起こしてしまうのです。
グルタミン酸はこのような有毒なアンモニアを無毒化し、尿の排出を促します。
バリンはアンモニアの処理を行うグルタミン酸を生成するため、アンモニアの代謝を促進する効果があります。

[※1:必須アミノ酸とは、動物の成長や生命維持に必要であるにも関わらず体内で合成されないため、食物から摂取しなければならないアミノ酸のことです。バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類が存在します。]
[※2:加水分解物とは、反応物における水の反応によって、得られた分解物を指します。]
[※3:推定平均必要量とは、特定の年齢層や集団に属する集団に必要な量の平均から求められる推定の平均値のことです。]
[※4:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※5:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]

バリンの効果

●筋肉を修復する効果
バリンは、筋肉中のたんぱく質を構成する上で重要なアミノ酸です。またバリンを含むBCAAは、激しい運動後に傷ついた筋肉を修復するのに効果的であることもわかっています。
さらに、バリンは筋肉で消費されるエネルギー源でもあります。多くのアミノ酸は肝臓で分解されてエネルギーに変換されますが、バリンはグリコーゲンや遊離アミノ酸が減少した時に筋肉で消費されるエネルギー源です。

血液中には窒素が存在し、窒素を取り込むことで筋肉が成長します。ただし、体内に存在する窒素と、体外に排泄された窒素の量の差である窒素バランスが正常でなければ筋肉は成長しません。
血液中の窒素バランスが崩れると、体はバランスを整えようと筋肉組織を破壊して体外に窒素を放出します。
バリンは窒素が放出されマイナス状態になった窒素のバランスを調整し、プラスにすることで筋肉の破壊を防ぐ働きを持ちます。【3】

●肝硬変を改善する効果
バリンを含むBCAAは肝硬変患者の症状を改善する効果があります。
肝硬変になると芳香族アミノ酸[※6]の血中濃度が高くなる一方、BCAAの濃度が低くなっています。このようなアミノ酸のバランスの崩れは、肝性脳症[※7]や、まれに昏睡状態を引き起こします。現在では、肝性脳症の予防をしながら必要なアミノ酸が補えるように、BCAAを用いた製剤も発案されています。
また、肝硬変になると血中のアルブミン[※8]量が減少します。アルブミン製剤とともにBCAAを投与すると、肝臓のたんぱく質の合成が促され、それに伴い、血清アルブミンの量も増えるということがわかっています。
BCAAはこのように、肝硬変患者の症状を改善する効果もあります。

●美肌効果
バリンはエラスチンを構成することで、肌のハリを保つ効果があります。
エラスチンは肌を内側から支え、ハリを保つために欠かせない成分でバリンを含む5種類のアミノ酸が80%~90%を占め、全体で800以上ものアミノ酸から構成されています。
人間の皮膚は大きく分けて、表面から角質層、表皮層、真皮層に分かれています。真皮層の厚さは約2~3mmで、主にコラーゲンとエラスチン、そして水分を保持しているヒアルロン酸などで構成されています。
バリンは肌のハリを保つコラーゲン同士を結び付け、肌を内側から支えるエラスチンを構成することで、肌のハリや弾力を保つ効果があります。

[※6:芳香族アミノ酸とは、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどの構造にベンゼン環を有するアミノ酸の総称です。]
[※7:肝性脳症とは、肝臓の機能が低下し意識障害に陥ることです。]
[※8:アルブミンとは、体内で物質を運ぶたんぱく質です。]

バリンは食事やサプリメントで摂取できます

バリンを多く含む食材

○レバー
○子牛肉
○脱脂粉乳
○プロセスチーズ
○落花生

こんな方におすすめ

○スポーツをしている方
○筋肉を強化したい方
○丈夫な体をつくりたい方
○肌のハリを保ちたい方

バリンの研究情報

【1】 食欲不振に対してバリンの経口摂取で有効性が示唆されています。高齢で栄養不良
の透析患者の食欲不振を軽減し、全体的な栄養状態を改善することがわかりました。バリン、ロイシン、イソロイシンを含む分岐鎖アミノ酸を摂取すると、食欲およびカロリー摂取量が速やかに増加し、血中アルブミン値および身体計測値が向上することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11522870/

【2】分岐鎖アミノ酸は、タンパク質サプリメントが有効でない慢性肝性脳障害患者の栄養不良に推奨されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10779207/

【3】慢性の肝性脳症に対して、バリンの経口摂取は有効性が示唆されています。また、分岐鎖アミノ酸は慢性肝性脳障害患者の肝機能試験および窒素バランスを改善することが知られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3116290/

【4】躁病に対してバリンの経口投与で有効性が示唆されています。チロシン非含有で分岐鎖アミノ酸を含む飲料は、躁的興奮を6時間以内に軽減します。また、バリンの7日間の摂取で、症状軽減が2週間以上継続することがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12611783/

【5】バリンの投与により、遅発性ジスキネジー (運動障害) に対して有効性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10367552/

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参考文献

・船山信次 アミノ酸タンパク質と生命活動の化学 東京電機大学出版局

・日経ヘルス 日経ヘルスサプリメント辞典第4版 日経BP社

・中村丁次 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・田中平三 健康食品・サプリメント[成分]のすべて 同文書院

・Hiroshige K, Sonta T, Suda T, Kanegae K, Ohtani A. (2001) “Oral supplementation of branched-chain amino acid improves nutritional status in elderly patients on chronic haemodialysis.” Nephrol Dial Transplant. 2001 Sep;16(9):1856-62.

・Marchesini G, Bianchi G, Rossi B, Brizi M, Melchionda N. (2000) “Nutritional treatment with branched-chain amino acids in advanced liver cirrhosis.” J Gastroenterol. 2000;35 Suppl 12:7-12.

・O’Keefe SJ, Ogden J, Dicker J. “Enteral and parenteral branched chain amino acid-supplemented nutritional support in patients with encephalopathy due to alcoholic liver disease.” JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1987 Sep-Oct;11(5):447-53.

・Scarna A, Gijsman HJ, McTavish SF, Harmer CJ, Cowen PJ, Goodwin GM. “Effects of a branched-chain amino acid drink in mania.” Br J Psychiatry. 2003 Mar;182:210-3.

・Richardson MA, Bevans ML, Weber JB, Gonzalez JJ, Flynn CJ, Amira L, Read LL, Suckow RF, Maher TJ. “Branched chain amino acids decrease tardive dyskinesia symptoms.” Psychopharmacology (Berl). 1999 Apr;143(4):358-64.

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