ベイリーブス(月桂樹)

bayleaves
ローレル ローリエ 月桂樹 ゲッケイジュ るり葉
Laurus nobilis

ベイリーブスはクスノキ科の植物で、日本では月桂樹の名で親しまれています。ベイリーブスの葉は、甘さを含んだスパイシーな香りが特徴で、煮込み料理、スープベース、クリームソースなど料理に幅広く利用されています。消化を促進する効果や抗菌・抗ウイルス効果、リウマチや関節炎の症状を緩和する効果が期待できます。

ベイリーブスとは

●基本情報
ベイリーブスは、クスノキ科の常緑高木植物[※1]で、地中海地方を原産として広く栽培されています。ベイリーブスは、普通の灌木[※2]のように茂る小さな木ですが、完全な条件下では高さ20 m近くになることもあります。槍のような形に近い楕円形の、つやつやした香り高い葉が特徴で、4月~5月頃、葉のわきに黄白色の小花を群がって咲かせ、気候が暖かいとオリーブに似た果実をつけます。しかし雌雄は別の株で、日本には雌株がきわめて少なく、果実をみることはあまりありません。生育には屋根のある、日当たりの良い場所を必要とします。日本では害虫被害が多いことから、鑑賞樹にはあまり適していませんが、ヨーロッパでは一般的な鑑賞樹として親しまれています。
ベイリーブスは、和名を月桂樹といいます。またローレルという名でも知られています。学名の「Laurus」はラテン語で「称賛」を意味するlaudisに由来し、古代ギリシャでは勝利と平和の象徴とされています。

●ベイリーブスの歴史
ローマ時代には万能薬とされ、病人が出ると戸口にベイリーブスの枝を下げたと伝えられています。またベイリーブスの葉はヒステリーに、果実は堕胎薬としても用いられたようです。また中世以降は、葉を床にまいて家全体の香りをよくするために利用されました。ベイリーブスは1905年頃にフランスから日本へ渡来した植物で、日露戦争の戦勝記念樹としても有名です。
古代ギリシャやローマの時代からベイリーブスは勝利と英知のシンボルとされており、ベイリーブスの葉や枝で編んだ冠がオリンピックの勝利者に与えられています。また、学者や詩人が学問上の栄誉を受けた際にもベイリーブスの冠を与えられており、現代の学士の称号もベイリーブスの果実を指す「バカロレア」です。

<豆知識>ギリシャ神話とベイリーブス
ギリシャ神話によると、エロスの金の矢を胸に受けたアポロは、ダフネ(海女神)を恋いこがれて追いかけました。しかし逃れたダフネが父なる神に救いを求めたところ、たちまち1本のベイリーブスの木に化身したといわれています。これを悲しんだアポロはその後、ベイリーブスを神木(アポロの木)として王冠を飾ることにしたと伝えられています。俗にこの木は、決して落雷しない、この木が枯れるのは社会的大事件の凶兆だといわれるようになりました。この神話を古代ローマの詩人オビットは「おまえはわたし(アポロ)の妻にふさわしいから、わたしはおまえをわたしの木の故に、嫁にする。おまえは名誉と著名の賞品になれ。不滅の詩人と詩との栄冠になれ。おまえはローマ人のフェスティバルを飾れ、そして詩人の次に、勝利者の栄冠になれ」とうたい、古代ギリシャのローマでは凱旋将軍や競技の勝者にベイリーブスの葉や小枝でつくった冠(月桂冠)を頭に飾り、勝利の象徴とするようになりました。その風習は現代でも受け継がれています。

●ベイリーブスの利用
・食品
ハーブの大半が「カットして選別された」形で売られていますが、ベイリーブスは食材として、葉をまるごと乾燥させたものが売られています。薬味草の束であるブーケガルニ[※3]には欠かせない材料であり、煮込み料理、スープベース、クリームソースに、葉をまるごと加えて使用します。ベイリーブスは、全世界で使用されていますが、フランス料理、地中海沿岸地方の料理、ヨーロッパ大陸の料理には欠かせない存在です。料理にベイリーブスが入っていると幸運だという説もありますが、盛り付けの前に取り除かれるのが一般的です。

・医薬品、香粧品
ベイリーブスの油はおもにクリームやローション、香水、石鹸、洗剤の香料成分に用いられます。最大使用量は香水中に0.2 %であると報告されています。

●ベイリーブスに含まれる成分と性質
ベイリーブスの主な成分は、酸化物類の1,8-シネオール、モノテルペンアルコール類のリナロール、フェノール類のオイゲノール、モノテルペン炭化水素類のピネン、サビネンです。
1,8-シネオール、リナロールは、抗菌、抗ウイルス作用があります。またオイゲノールには、強い殺菌力があります。ピネン、サビネンには、うっ滞除去[※4]、強壮、去痰、抗炎症作用があります。またうつやパニックの時に、情緒を安定させる効果もあるため、浴湯料やポプリ、不眠症のハーブピローなどにも利用されています。

[※1:常緑高木植物とは、幹や枝に一年中葉がついていて、樹高が5m以上の植物のことです。]
[※2:灌木とは、植物学の用語で、成長しても樹高が約3mまでの木のことです。]
[※3:ブーケガルニとは、パセリやタイム、ローリエ、エストラゴンなどの香草類を数種類束ねたものを指します。煮込み料理などの風味付けに用いられます。]
[※4:うっ滞除去とは、水分がたまっているのを改善する効果のことです。]

ベイリーブスの効果

●消化を促進する効果
ベイリーブスは、消化を促進する効果を持ちます。胃の主な役割は食物の消化です。食物の消化は胃の動きと胃液の働きによって行われ、分解された栄養素は適量ずつ十二指腸に送り出された後、小腸で効率良く消化吸収が行われ、食後数時間から半日くらいは食事をする必要がないようにできています。しかし胃液の分泌量が減少することで、うまく消化がされず、消化不良を起こしてしまいます。ベイリーブスには、胃液の分泌を刺激し、胃の不調を改善する効果があります。【1】【2】【6】【7】

●抗菌・抗ウイルス効果
ベイリーブスは、風邪やウイルス性の感染、口腔内の潰傷に効果があります。またベイリーブスの精油は頭皮から吸収され、髪を保護する皮脂腺に作用して、コンディションを整えるためにも利用されています。特にフケやかゆみには、殺菌作用のあるベイリーブスの精油[※5]を無添加のシャンプーに混ぜて、洗髪時に使用すると効果的です。【3】【4】

●リウマチや関節炎の症状を緩和する効果
ベイリーブスには、リウマチや関節炎の症状を緩和する効果があります。関節リウマチとは、数週間関節の痛みや腫れが起こる症状のことをいいます。動かしたときだけでなく、じっとしているときにも関節に痛みを感じ、朝起きたときに、特にこわばることがよくあります。関節の腫れは、中にゼリーがつまっているようなぶよぶよとした腫れ方をします。関節リウマチでは、指先の関節が腫れることはほとんどありませんが、指先から二番目、三番目の関節や、手首の関節がよく腫れます。また、関節以外の症状として、咳や息切れ、皮膚の出血斑、目の充血、などの症状がでることがあります。サプリメントを使用して関節痛が軽減したという報告がいくつかあり、ベイリーブスにも関節の痛みをやわらげる効果があります。ベイリーブスの実や葉の煎液[※6]などは、神経痛やリウマチの治療薬として用いられています。【5】

[※5:精油とは、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した有効成分を高濃度に含有した100%天然の揮発性の芳香物質です。各植物によって特有の香りと機能をもち、アロマテラピーに利用されています。]
[※6:煎液とは、ハーブや生薬などに水を注ぎ、加熱して布ごしした内服用の液体のことです。]

ベイリーブスはこんな方におすすめ

○消化を促進したい方
○胃もたれが気になる方
○風邪をひきやすい方
○リウマチを予防・改善したい方

ベイリーブスの研究情報

【1】月桂樹は、膵液、唾液のαアミラーゼの活性を阻害する働きがあることが分かりました。このことから、月桂樹は、食後、急激な血糖上昇を防ぐことが分かりました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006992703

【2】月桂樹の抽出物は、ラットで塩酸エタノール誘発胃病変を抑制したことが分かっています。月桂樹抽出物に含まれるγ-ブチロラクタン、γ-ブチロラクトールがこれらの作用を抑制した可能性があることが分かりました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006681981

【3】月桂樹の葉抽出物は、グラム陽性細菌(黄色ブドウ球菌、連鎖球菌)、カビなどの真菌(黒カビ、クリプトコッカス、アスペルギニス)などの病原微生物の生育を抑える働きがあることが分かりました。.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21678158

【4】月桂樹の葉は、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対し、有効に働くことが分かりました。その成分としては、ケンペロール-3-O-α-L-(2”4”-ジ-E-pクロマイル)-ラムノシド、ケンペロール-3-O-α-L-(2”-Z-p-E-pクロマイル)-ラムノシドであることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18758079

【5】月桂樹葉オイルはアレルギーによって誘発される炎症や浮腫を抑制することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12916069

【6】月桂樹に含まれるコスツノリドは、空腹の抑制、胃液の分泌を改善しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11912066

【7】月桂樹の葉は、ラットのキャスターオイル誘発下痢を抑制することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22082096

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参考文献

・ワンダ・セラー 著 アロマテラピーのための84の精油 フレグランスジャーナル社

・武政 三男 著 80のスパイス辞典 フレグランスジャーナル社

・蔵敏則 発行 食材図典 小学館

・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社

・鈴木洋 漢方のくすりの事典 医歯薬出版

・朝倉邦造 天然食材・薬品・香粧品の事典 朝倉出版

・トム・ストバート著 世界のスパイス百科 鎌倉書房

・田中孝治 薬になる植物百科 主婦と生活社

・アースプランツ リサーチ オーガニゼーション監修 HERB BIBLE 双葉社

・榮 昭博、関崎 悦子 (2007) “膵臓および唾液α-アミラーゼ活性に及ぼす食品等の抽出物の影響” 桐生短期大学紀要 18, 17-22, 2007-12-00

・松田 久司、植村 俊昭、下田 博司、二宮 清文、吉川 雅之、河原 有三 (2000) “西洋ハーブ”月桂樹”および”菩提樹”の抗アルコール活性成分” 天然有機化合物討論会講演要旨集 (42), 469-474, 2000-10-01

・Fukuyama N, Ino C, Suzuki Y, Kobayashi N, Hamamoto H, Sekimizu K, Orihara Y. (2011) “Antimicrobial sesquiterpenoids from Laurus nobilis L.” Nat Prod Res. 2011 Aug;25(14):1295-303. doi:10.1080/14786419.2010.502532. Epub 2011 Jun 24.

・Otsuka N, Liu MH, Shiota S, Ogawa W, Kuroda T, Hatano T, Tsuchiya T. (2008) “Anti-methicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA) compounds isolated from Laurus nobilis.” Biol Pharm Bull. 2008 Sep;31(9):1794-7.

・Sayyah M, Saroukhani G, Peirovi A, Kamalinejad M. (2003) “Analgesic and anti-inflammatory activity of the leaf essential oil of Laurus nobilis Linn.” Phytother Res. 2003 Aug;17(7):733-6.

・Matsuda H, Shimoda H, Ninomiya K, Yoshikawa M. (2002) “Inhibitory mechanism of costunolide, a sesquiterpene lactone isolated from Laurus nobilis, on blood-ethanol elevation in rats: involvement of inhibition of gastric emptying and increase in gastric juice secretion.” Alcohol Alcohol. 2002 Mar-Apr;37(2):121-7.

・Qnais EY, Abdulla FA, Kaddumi EG, Abdalla SS. (2012) “Antidiarrheal activity of Laurus nobilis L. leaf extract in rats.” J Med Food. 2012 Jan;15(1):51-7. doi: 10.1089/jmf.2011.1707. Epub 2011 Nov 14.

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