にんじん

carrot

英名のcarrotが「カロテン」の語源となる程β-カロテンが豊富に含まれるにんじんには、動脈硬化の予防や免疫力の向上、目や肌の健康維持などの働きがあります。
あらゆる年代の悩みに応えてくれる、「緑黄色野菜の王様」と呼ばれる野菜です。

にんじんとは?

●基本情報
にんじんはセリ科の野菜です。
長根の東洋にんじんと短根の西洋にんじんがあり、栽培や流通の便利な西洋にんじんは品種改良が進み多くの品種が栽培されています。カロテンの量は一般的には東洋にんじんより西洋にんじんの方が多く含まれます。品種によって様々な色素を含んでおり、鮮やかな色を持つ緑黄色野菜として人気です。かつては子どもの嫌う野菜の代表でもありましたが、品種改良によりにおいが薄く、味も甘いものに改良されています。

●にんじんの歴史
古代ギリシャでは薬用として根が枝分かれした刺激の強いにんじんが栽培されていたようです。
10世紀頃に現在のような円錐形のにんじんが現在のトルコ西部辺りで誕生したとされ、12~15世紀頃にヨ-ロッパに広まりました。オレンジ色のにんじんは17~18世紀頃にオランダでつくり出されたといわれています。

東洋にんじんは12~13世紀頃に中国に伝わり、その後改良されて日本に伝わりました。
現在主流の西洋にんじんは江戸時代後期になってから日本に伝わり、明治時代以降に日本中に普及しました。

●にんじんの原産地、生産地
にんじんの原産地は中央アジアのアフガニスタンで、現在のアフガニスタンに横たわる山脈「ヒンドゥークシュ(ヒンズークシ)」山麓で栽培されたことが始まりと考えられています。
現在、最も生産量が多い国は中国で、アメリカ、ロシアと続きます。
日本では様々な地域で生産されていますが、北海道と千葉県が全国生産量の約50%を占めています。

●にんじんの品種
にんじんは、原産地であるアフガニスタンから伝わったルートによって、東洋にんじんと西洋にんじんの2種類に分けられます。

アフガニスタンから中国を経て東方に伝わった東洋にんじんは、赤色の金時にんじんを筆頭に、甘みが強くにんじん特有のくさみが少ない品種です。煮ても形が崩れないことから日本食に彩りとして使用することが多くあります。

・金時にんじん
京にんじんとも呼ばれ、軟らかく甘みがありにんじん特有のにおいが少ない品種です。
長さは30cm前後です。金時にんじんの赤い色はリコピンと呼ばれる色素です。

・滝野川大長(たきのがわおおなが)
長さが70cm以上もあるにんじんです。
栽培が難しくトウ立ち[※1]しやすいことから1960年以降になると急激に減少し、現在ではほとんど栽培されていません。

・島にんじん
琉球にんじんと呼ばれている黄色いにんじんです。沖縄産のため暑さに強く、十分な甘みがあります。細長い形をしており、長さは30~40cm程です。

アフガニスタンからオランダを経てイギリスへ伝わった西洋にんじんは、甘みがあるオレンジ色のにんじんでカロテンを豊富に含んでいます。かつてはにんじん臭が強かったのですが、食べやすく品種改良されています。

・五寸にんじん
現在日本で販売されているにんじんのほとんどが五寸にんじんです。オレンジ色が強く、β-カロテンを豊富に含んでいます。長さは名前の通り五寸(約15.2cm)程です。
「向陽2号」「ひとみ五寸」などの品種があります。

・紫にんじん
ポリフェノ-ルの一種であるアントシアニンが豊富に含まれる紫色の皮を持つにんじんです。中心の色はオレンジ色や黄色など品種によって異なります。

・ミニキャロット
長さが10cm、直径が1~1.5cm程の小さいにんじんです。甘みが強く、果肉が柔らかいことが特徴です。にんじんは皮に近いところに多くの栄養素が含まれています。皮が薄く剥かずに食べることができるミニキャロットは、無駄なく栄養素が摂れる品種です。

<豆知識①>にんじんの名前の由来
にんじんという名前は、枝分かれをしている薬用にんじんの根の形が人間の形に似ていることから付けられており、本来にんじんとは薬用にんじん(朝鮮人参や高麗人参、田七人参)のことを指しています。
薬草にんじんはウコギ科の植物であり、にんじんとは異なる植物ですが、東洋にんじんは日本で古くから知られていた薬用にんじんと根の形が似ており、葉の形がセリに似ていることから「せりにんじん」と呼ばれていました。また、薬用にんじんとは違い食用とされることから「菜にんじん」とも呼ばれていたそうです。菜にんじんは保存に適しており美味しいことから全国に広まり、17世紀頃には菜にんじんをにんじんと呼ぶようになったといわれています。

●にんじんの選び方
全体が色鮮やかでツヤとハリがあり、上部までオレンジ色をしたものが美味しいにんじんです。
葉の切り口の軸が細い方が果肉が柔らかい傾向にあります。
にんじんの旬は春と秋冬の2回あります。春のにんじんはみずみずしい風味と柔らかい歯ごたえがあり、秋冬のにんじんは実がしまっていて、加熱により甘みが増します。

●にんじんの保存方法
夏場と冬場で適した保存方法が異なります。
夏場は泥を落とした後よく水気を拭いて新聞紙で包み、乾燥を防ぐためラップやポリ袋で密封し、冷蔵庫で保存します。冬場はラップやポリ袋で乾燥を防ぎ、常温で保存します。
1本を食べきれない時は、先の方から使うようにします。
葉がついている場合は栄養素が葉にとられてしまうため、すぐに切り落とします。にんじんの葉は保存しにくいので、切ったその日に調理する必要があります。

●にんじんに含まれる成分と性質
「カロテン」という名前は、にんじんの英名「キャロット」が語源であるといわれる程、にんじんにはカロテンの一種であるβ-カロテンが豊富に含まれています。β-カロテンは油と一緒に調理すると体内で効率よく吸収できるため、油などでソテーにしたりオイル系のドレッシングをかけて食べることがおすすめです。
β-カロテンは体内で必要な分だけビタミンAに変換されるため、摂りすぎる心配がなく安心です。

野菜の中では炭水化物が多く、ショ糖を多く含んでいるため特有の甘みを持ちます。ビタミン類やミネラル類をバランス良く含んでいます。調理のレパートリーが広く、一度にたくさん食べることができるため緑黄色野菜の中でもトップレベルの栄養価だといわれています。
また、にんじんの葉も食べることができます。
にんじんの葉は、カリウム、鉄、カルシウム、ビタミンB群、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンK、カロテンなどを豊富に含む、栄養価の高い緑黄色野菜です。

<豆知識②>にんじんに含まれる酵素
にんじんには、ビタミンCを酸化させる酵素であるアスコルビナーゼが含まれています。
加熱調理する場合は酵素が不活性化するため問題はないのですが、生の状態でビタミンCに富む野菜と一緒に食べる場合は、酢または柑橘系(レモンなど)のしぼり汁を加えるとアスコルビナーゼの働きを抑制してくれます。すりおろすことによりアスコルビナーゼの働きが活発になるため、ジュースに加える際は注意する必要があります。

[※1:トウ立ちとは、「とう(花をつける花茎)」が伸びてくることです。トウ立ちすると葉が硬くなり、花に栄養分を取られてしまうため、味が落ち、硬くて食べられなくなります。]

にんじんの効果

にんじんには豊富なβ-カロテンとカリウム、ルテイン、食物繊維が含まれているため、以下のような健康に対する効果が期待できます。

●動脈硬化を予防する効果
日常生活で体内に発生する活性酸素[※2]は、血中の脂質を酸化させ動脈硬化の原因となります。
β-カロテンには体内の活性酸素を除去する働きがあり、血中の脂質の酸化を防ぎ血管を若々しく保ってくれるため、動脈硬化の改善や予防に効果を発揮するといわれています。
特に金時にんじんには、赤色の色素であるリコピンも含まれているため、より強い抗酸化作用[※3]が期待できます。

●目の健康を保つ効果
β-カロテンから変換されたビタミンAは、目が網膜で光を感じる時に必要なロドプシンの生成に必要とされる成分で、夜盲症や眼精疲労の予防に効果があります。また、にんじんにはルテインが含まれています。ルテインは目の水晶体や黄斑部に多く存在し、強い抗酸化力を持つカロテノイド色素で、紫外線などのダメージから目を守ります。
紫にんじんには、目の健康を保ってくれるポリフェノ-ールの一種であるアントシアニンも含まれます。

●免疫力を高める効果
β-カロテンから変換されたビタミンAは皮膚やのどなどの粘膜を正常に保つ働きがあり、免疫力を高めてくれるため、口内炎や風邪の予防に効果的です。【1】

●美肌効果
にんじんにはβ-カロテンが豊富に含まれます。β-カロテンから変換されたビタミンAには皮膚や粘膜を丈夫に保ってくれる働きがあるため肌のカサつきや肌荒れを改善してくれる働きがあります。
また、β-カロテンは紫外線によって発生した活性酸素を無効化する働きがあり、シミやそばかすの原因となるメラニン色素の発生を抑制する効果があります。

●高血圧を予防する効果
食塩の過剰な摂取などによりナトリウムが血中に多く存在すると、体内で水分の移動が正常に行われなくなり高血圧を招いてしまいます。
にんじんに含まれるカリウムには、余分なナトリウムを体外に排出する働きがあるため、血圧を下げ高血圧を予防してくれる効果が期待できます。

●便秘を解消する効果
にんじんにはペクチンと呼ばれる食物繊維が豊富に含まれています。ペクチンには、腸の調子を整え便秘を解消する働きがあります。

[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
[※3:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]

にんじんは食事やサプリメントで摂取することができます

こんな方におすすめ

○動脈硬化を予防したい方
○目の健康を維持したい方
○風邪をひきやすい方
○美肌を目指したい方
○高血圧を予防したい方
○便秘でお悩みの方

にんじんの研究情報

【1】にんじん抽出物が抗ウイルス成分インターフェロンα2の発現を促進するはたらきがあり、ニンジンに抗ウイルス作用と免疫向上作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22420216

【2】にんじんにはフラボノイド成分ルテオリンが含まれています。ルテオリンは抗酸化作用と抗菌作用を持つ他、病原性細菌の発育を阻害する働きを持つことから、にんじんに抗菌作用と下痢予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16093236

【3】にんじんに含まれる機能性成分トリメチオキシベンズアルデヒド酸は、炎症促進酵素COX-2を阻害する働きを持つことから、にんじんに抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/13680840

参考文献

・野間佐和子 旬の食材 秋‐冬の野菜 講談社

・荻野善之 野菜まるごと大図鑑 主婦の友社

・Luchakivskaia IuS, Olevinskaia ZM, Kishchenko EM, Spivak NIa, Kuchuk NV. (2012) “Obtaining of hairy-root, callus and suspension carrot culture (Daucus carota L.) able to accumulate human interferon alpha-2b].” Tsitol Genet. 2012 Jan-Feb;46(1):18-26.

・Kumarasamy Y, Nahar L, Byres M, Delazar A, Sarker SD. (2005) “The assessment of biological activities associated with the major constituents of the methanol extract of ‘wild carrot’ (Daucus carota L) seeds.” J Herb Pharmacother. 2005;5(1):61-72.

・Momin RA, De Witt DL, Nair MG. (2003) “Inhibition of cyclooxygenase (COX) enzymes by compounds from Daucus carota L. Seeds.”  Phytother Res. 2003 Sep;17(8):976-9.

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