ヘスペリジン

hesperidin

ヘスペリジンはポリフェノールの一種で、青みかんなどの柑橘類の皮やすじに多く含まれている栄養素です。
抗酸化作用や末梢血管を強化する作用があるため、血流を改善する効果、高血圧を予防する効果、コレステロール値を低下させる効果などが期待されています。
また、ヘスペリジンはアレルギー反応による炎症を抑制する作用も持つため、花粉症の予防効果も期待されています。

ヘスペリジンとは?

●基本情報
ヘスペリジンとは、柑橘類に多く含まれている栄養素で、ビタミンPとも呼ばれるポリフェノールの一種です。
ヘスペリジンは発見された当初、人間の生命活動に必須の栄養素であると考えられていたため、ビタミン類の一種として「ビタミンP」と名付けられましたが、厳密にはビタミンではないことが明らかとなり、現在、ヘスペリジンはビタミン様物質として扱われています。ヘスペリジンの他にも、ルチンケルセチンなどもビタミンPに分類されます。
古くからヘスペリジンを含むみかんの皮を乾燥させ、陳皮(ちんぴ)として漢方に用いられたり、欧州ではヘスペリジンは静脈の循環を改善する薬の有効成分として用いられてきました。
ヘスペリジンは、特に青みかんの皮やすじに多く含まれ、その量は完熟みかんの十数倍にものぼるといわれており、みかんが熟すにつれてヘスペリジンの含有量が減少していくことが明らかとなっています。

●ヘスペリジンの性質
ヘスペリジンは熱や光に弱く、加熱するとその作用を失う恐れがあります。また、酸化しやすい成分でもあるため、空気にさらされると変性するといわれています。
ヘスペリジンは、本来水に溶けにくい性質を持つ成分であるため、体内への吸収があまり良くないと考えられていました。
しかし近年では水に溶けやすい性質を持ち、非常に高い吸収力を持った特別なヘスペリジンが開発され、サプリメントなどに広く利用されるようになりました。
みかんなど植物由来のヘスペリジンより、効率良く摂取することが期待できます。

●ヘスペリジンの働き
ヘスペリジンは、活性酸素[※2]を除去する抗酸化作用や、末梢血管を強化する働きが広く知られています。
また、ヘスペリジンには血圧の上昇を抑制する作用や、血中のコレステロール値を改善する作用、抗アレルギー作用、骨密度の低下を抑制する作用などが期待されています。
さらに、ヘスペリジンはビタミンCの吸収を促進する作用も持つため、ビタミンCを効率的に摂取するためにも利用できる成分です。

[※1:ビタミン様物質とは、ビタミン類には含まれず、ビタミンと似た働きを持つ栄養素の総称です。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素です。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化の原因になるとされます。]

ヘスペリジンの効果

●血流を改善する効果
ヘスペリジンが持つ末梢血管を強化する作用は、血流を改善する効果につながります。
末梢血管には、毛細血管とも呼ばれている非常に細い血管が多く存在しており、体内の細胞と物質のやりとりを行うことができる組織です。細胞は末梢血管から酸素や栄養素を与えられることで、健康な状態を維持しています。
末梢血管を強くしなやかに保つためには、血管の構成成分であるコラーゲンを十分に生成することが重要であり、コラーゲンを生成する役割はビタミンCが担っています。
ヘスペリジンには、ビタミンCの働きを補強する作用があるため、コラーゲンの生成を促進し、末梢血管のように細く弱い血管を丈夫にすることができると考えられています。
また、ヘスペリジンは血管の透過性を適度に保つ働きがあります。
末梢血管は、体内の細胞と栄養や酸素などのやりとりを行っていますが、その機能は末梢血管が持つ透過性によって維持されています。
透過性とは、物質を通り抜けさせることができる性質のことです。
末梢血管の透過性は、高すぎても低すぎても体によい影響を与えません。酸素や栄養素など、細胞に与える物質の大きさに応じて適度な透過性を保つことが大切です。
ヘスペリジンは、この末梢血管が持つ透過性を調節する作用があり、高すぎる透過性を抑制することができます。
ヘスペリジンが持つ、このようないくつもの作用によって末梢血管はその強度が保たれています。【9】

●冷えを改善する効果
ヘスペリジンを摂ることによって手先足先の末梢血管の血流が改善され、体温の上昇を促す作用があります。
ある実験で、ヘスペリジンを7日間継続して摂取した人に15℃の水に手をつけてもらい、体温の変化をサーモグラフィーで測定したところ、ヘスペリジンを摂取した人の手は体温の回復が早いことがわかりました。
ヘスペリジンのこの効果は、古くから日本の生活にも組み込まれており、天日干ししたみかんの皮をお風呂に入れると体が温まるといわれているのは、みかんの皮に含まれているヘスペリジンの血流を改善する効果の有効的な活用例であるといえます。【9】

●高血圧を予防する効果
ヘスペリジンの働きは、高血圧症の予防にも効果的です。
高血圧とは、血管を流れる血液が、血管内壁に対して異常に高い圧力をかけている状態を指します。
高血圧が続くと、頭痛、めまい、動悸、息切れ、手足のしびれなどが症状として現れるようになります。
ヘスペリジンの高血圧に対する効果を調べた実験では、高血圧を発症しているラットに糖転移ヘスペリジンを摂取させた所、最高血圧値が最大約8%低下したことが確認されています。【3】

●生活習慣病の予防・改善効果
ヘスペリジンには、悪玉(LDL)コレステロール値や中性脂肪を低下させ、善玉(HDL)コレステロールを増加させる効果があります。
コレステロールは、体内で増加しすぎることによって血流の悪化、高血圧、動脈硬化などの生活習慣病の原因にもなるといわれています。
ヘスペリジンのもつ血中コレステロール値の改善効果や血中脂質の改善効果は、血液の健康状態に起因する生活習慣病の予防や改善に有効です。【2】

●花粉症を予防する効果
ヘスペリジンにはアレルギー反応による炎症を抑える働きがあることから、花粉症を予防する効果があるといわれています。
アレルギー反応による様々な症状は、末梢血管の透過性が高くなり過ぎることも原因のひとつです。
アレルギー反応が起こると、体の異常に対して血液中から白血球[※4]が飛び出し、侵入者である物質を攻撃するために働き始めます。その際、末梢血管は白血球が通れるようにその透過性を高めるため、白血球以外にも、水分やたんぱく質などが過剰に通り抜けていき、その結果、花粉症の鼻づまりや鼻水などの症状が引き起こります。
ヘスペリジンは、末梢血管の透過性を調節する作用があるため、アレルギー反応によって高くなり過ぎた透過性を抑え、鼻水など花粉症の症状を予防することができると考えられています。【8】

●骨粗しょう症を予防する効果
ヘスペリジンには、骨粗しょう症を予防する効果があるといわれています。
骨粗しょう症とは、代謝によって骨が吸収される速度が、骨が形成される速度を上回ることで、骨がもろくなる症状を指します。
ヘスペリジンには、骨密度の低下を抑制する効果があるといわれているため、骨粗しょう症のように、骨密度が著しく低下する症状を予防することができます。
また、ヘスペリジンを摂取することで、骨の損傷を防ぐことが明らかとなっています。【4】

[※3:壊血病とは、ビタミンCの不足によって体内の各器官に出血性の障害が生じる疾患のことです。]
[※4:白血球とは、血液に含まれる細胞のひとつです。体内に侵入したウイルスや細菌などの異物を排除する役割があります。]

ヘスペリジンは食事やサプリメントで摂取できます

ヘスペリジンを含む食品

○青みかん、みかん、レモンなどの柑橘類
さくらんぼ(チェリー)

こんな方におすすめ

○血流を改善したい方
○高血圧を予防したい方
○コレステロール値が気になる方
○花粉症を予防したい方
○骨粗しょう症を予防したい方

ヘスペリジンの研究情報

【1】LPSによってCOX2遺伝子の発現を誘発したマクロファージに250~500μMのへスペリジンを添加した結果、COX2の発現が減少されました。このことからヘスペリジンは抗炎症能力、および抗酸化作用を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16101151

【2】ヘスペリジンは血漿中のHDLコレステロールを増加させ、LDLコレステロール、トリグリセリドを低下させることがわかりました。このことからヘスペリジンの摂取は、血中の脂質濃度を改善させる働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7495469

【3】ヘスペリジン(HES)およびグルコシルヘスペリジン(GHES)が高血圧自然発症ラット(SHR)に対してどのような作用を及ぼすかについて検討しました。SHRに30mg/kg/日のHESまたはGHESを25週間与えたところ、血管の直径は大きくなり、また平均血圧が改善されました。さらに血中HDLコレステロールは増加することがわかりました。これらのことからGHESおよびHESの摂取は、血圧を下げる働きがあることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14974738

【4】卵巣除去マウス(OVX)誘発骨密度低下に対するヘスペリジンの作用について検討しました。OVX-通常食事(コントロール群)、OVX-ヘスペリジン0.5g/100g(HesA群)またはOVX-αグルコヘスペリジン0.7g/100g(HesB群)を4週間与えたところ、コントロール群に比べHesA群もHesB群も骨に含まれるミネラル濃度は有意に高くなりました。また、HesB群では卵巣除去によって減少した骨密度を改善しました。このことからヘスぺリジンのようなシトラスフラボノイドには骨の代謝を改善する働きがあることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12771335

【5】ヘスペリジンをマウスへ腹腔内投与し、3時間後、チフス菌を感染させ敗血症を引き起こさせましたが、ヘスぺリジンの用量依存的にマウスは回復しました。加えて肝臓・脾臓の細菌が減少しただけでなく、血漿中のTNFαなどの炎症因子が減少しました。これらのことからヘスペリジンンの投与は、急性敗血症によるショック状態からもいち早く回復させる可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15133244

【6】ヘスペリジンのラットへの投与(50mg/kgまたは100mg/kg皮下投与)はカラギナン誘発の浮腫をそれぞれ47%、63%抑制しました。また100mg/kgのヘスペリジン投与ではデキストラン誘発浮腫を約33%まで抑制することがわかりました。これらの結果から、シトラスから抽出したヘスペリジンはゆるやかな抗炎症作用を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8021799

【7】ヘスペリジンはオピオイド受容体を通し、抗不安作用を有することがわかりました。またこのことから、ベンゾジアピンとヘスペリジンを併用することで、鎮静作用だけではなく痛みに対する新たな治療方針が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18048026

【8】肥満細胞が放出するケモタキシンは、自己および他の肥満細胞の遊走を促進し、ひいてはアレルギーを促進させます。ヘスペリジンのアレルギーに対する作用について調べました。ヘスペリジン投与により遊走した肥満細胞の数は減少し、また、p38活性・炎症性サイトカイン活性が抑制しました。これらのことから、ヘスペリジンは、アレルギーに対して有効であることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21559359

【9】ヘスペリジンによる,冷え症女性に対する影響について検討しました。冷えを訴える女性11名を対象に酵素処理ヘスペリジン(250 mg/日)またはプラセボを摂取させ単回摂取40分後と7日間継続摂取後、手掌部に冷却負荷を与え,その後の皮膚表面温,皮膚血流量,血管幅の変化を評価しました。酵素処理ヘスペリジン単回摂取時は,プラセボに比べて冷却負荷後の温度変化量,血流変化率が有意に高く,酵素処理ヘスペリジン継続摂取時においても,冷却負荷後の温度変化量,血流変化率が有意に高値を示しました。酵素処理ヘスペリジンを摂取することで,末梢の血流量が増加し、皮膚表面温度を回復させることが考えられました。継続的に摂取することでその効果が維持され,冷えを緩和する可能性があることが示唆された。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10024794479

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参考文献

・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院

・中村丁次 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・日本健康食品・サプリメント情報センター 編 健康食品・サプリメント(成分)のすべて 同文書院

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・Hirata A, Murakami Y, Shoji M, Kadoma Y, Fujisawa S. (2005) “Kinetics of radical-scavenging activity of hesperetin and hesperidin and their inhibitory activity on COX-2 expression.” Anticancer Res. 2005 Sep-Oct;25(5):3367-74.

・Monforte MT, Trovato A, Kirjavainen S, Forestieri AM, Galati EM, Lo Curto RB. (1995) “Biological effects of hesperidin, a Citrus flavonoid. (note II): hypolipidemic activity on experimental hypercholesterolemia in rat.” Farmaco. 1995 Sep;50(9):595-9.

・Ohtsuki K, Abe A, Mitsuzumi H, Kondo M, Uemura K, Iwasaki Y, Kondo Y. (2003) “Glucosyl hesperidin improves serum cholesterol composition and inhibits hypertrophy in vasculature.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2003 Dec;49(6):447-50.

・Chiba H, Uehara M, Wu J, Wang X, Masuyama R, Suzuki K, Kanazawa K, Ishimi Y. (2003) “Hesperidin, a citrus flavonoid, inhibits bone loss and decreases serum and hepatic lipids in ovariectomized mice.” J Nutr. 2003 Jun;133(6):1892-7.

・Kawaguchi K, Kikuchi S, Hasunuma R, Maruyama H, Yoshikawa T, Kumazawa Y. (2004) “A citrus flavonoid hesperidin suppresses infection-induced endotoxin shock in mice.” Biol Pharm Bull. 2004 May;27(5):679-83.

・Emim JA, Oliveira AB, Lapa AJ. (1994) “Pharmacological evaluation of the anti-inflammatory activity of a citrus bioflavonoid, hesperidin, and the isoflavonoids, duartin and claussequinone, in rats and mice.” J Pharm Pharmacol. 1994 Feb;46(2):118-22.

・Loscalzo LM, Wasowski C, Paladini AC, Marder M. (2008) “Opioid receptors are involved in the sedative and antinociceptive effects of hesperidin as well as in its potentiation with benzodiazepines.” Eur J Pharmacol. 2008 Feb 12;580(3):306-13. Epub 2007 Nov 13.

・Jeong HJ, Choi Y, Kim KY, Kim MH, Kim HM.(2011) “C-kit binding properties of hesperidin (a major component of KMP6) as a potential anti-allergic agent.” PLoS One. 2011 Apr 29;6(4):e19528.

・YOSHITANI Kayo、MINAMI Toshiko、TAKUMI Hiroko、KAGAMI Yoshiaki、SHIRAISHI Koso “Effect of α-Glucosylhesperidin on Poor Circulation in Women” Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science 61(5), 233-239, 2008-10-10

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