ヒソップ

hyssop
ヤナギハッカ
Hyssopus officinalis

ヒソップは、フレッシュで甘さのあるさわやかな香りをもつハーブです。その香りから不安や心配、神経の緊張、ストレスなどをやわらげる効果があります。また風邪やせきを鎮めたり、すり傷や切り傷などの炎症を抑えたりする効果があります。

ヒソップとは?

●基本情報
ヒソップは、高さが50 cmほどのシソ科の多年草[※1]です。ハンガリーが原産でおもな産地はフランス、ドイツ、イタリアです。
ヒソップの名前は、ヘブライ語の「エゾプ」およびギリシャ語の「アゾプ」から由来しており、英語に訳されていくうちに誤りが生じたとざれています。ヨーロッパでは古くから薬として重宝されたほか、古くは神聖な寺院を浄化する聖なる植物とされていました。ヒソップは、葉が柳に似ており、ハッカのようなさわやかな香りがすることから、日本名で「柳薄荷(ヤナギハッカ)」と呼ばれています。
ヒソップは夏に、ラベンダーを思わせるような青紫色の花を咲かせます。ヒソップのほかの品種には桃色、白色の花を咲かせるものもあります。家庭では比較的育てやすい植物で、種から栽培する場合、種まきは春と秋に行います。

●ヒソップの歴史
ヒソップは旧約聖書にも記載があるほど古い歴史を持ちます。10世紀には、ベネディクト会の修道士たちにより、中央ヨーロッパに持ち帰られ、リキュールの風味づけに使われました。現在でもこの修道院でつくられるリキュールは「ベネディクティン」という名で知られています。中世になると、防虫を兼ねてストローイングハーブとして、床にまき散らして部屋を香らせたり、家の中に吊るしたりして、厄除けや魔除けとして用いるようになり、庶民の生活に深く結びついていきました。イギリスでも中世には、ガーデニングに取り入られるようになり、エリザベス朝の頃になると、ハーブガーデンにはかならずヒソップを植えることが流行したそうです。日本に伝わったのは、明治時代であるとされています。

●ヒソップの利用
若葉はサラダやハーブティー、ドライリーフはスパイスに、開花前の花穂のついた枝葉はリキュールやビネガーの香りづけとして利用されています。さらにキッチンハーブとしても使われているほか、130種類のハーブを使って作られるリキュール「シャルトリューズ」にもジュニパー、コリアンダークローブなどのハーブとともにヒソップが利用されています。
またヒソップは、その葉だけでなく精油としても利用されています。ヒソップの精油は無色です。精油(エッセンシャルオイル)[※2]はオイルという名に反して、油の成分である脂質類はほとんど含まれません。天然の精油には、有効成分が含まれ、さまざまな薬理作用をもたらします。ヒソップの精油は、殺菌・脱臭作用にもすぐれ、鼻やのどの不調といった呼吸器系の症状に用いられます。

●ヒソップに含まれる成分と性質
ヒソップの主な成分は、ケトン類のカンファー、モノテルペン炭化水素類のピネン、酸化物類の1,8シネオールです。ピネンは、痛みをやわらげ、炎症を抑える効果があります。またカンファーは肺や気管支などの呼吸器系の感染症に効果を発揮します。またヒソップのハーブティーは、神経の強壮にも使われ、不安になっているとき、ヒステリックになっているときに効果があります。
副作用や薬などとの相互作用は知られていませんが、ヒソップの精油にはわずかながら神経毒性があるため、高血圧、感情が高ぶる人は避けた方がよいです。また通経を促して流産を誘発する作用もあるといわれているので、妊娠中の人も使用を避けた方がよいです。初心者の方はヒソップと同様の働きがある他の精油を代用する方が安全です。

[※1:多年生草本とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:精油とは、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した有効成分を高濃度に含有した100%天然の揮発性の芳香物質です。各植物によって特有の香りと機能をもち、アロマテラピーに利用されています。]

ヒソップの効果

●咳や痰(たん)を抑制する効果
ヒソップのアロマテラピー[※3]は、症状を抑え込むのではなく、ウイルスそのものを撃退し、病気に対抗する免疫力を高める効果があります。ヒソップには少し苦みがあり、この苦みのもとであるマルビインという成分に痰を切る作用があるとされています。風邪や気管支炎で咳が出るとき、痰が絡むときによく使われます。またヒソップの主な成分であるケトン類のカンファーには、粘液を溶かして痰を一掃する作用があるため、肺や気管支などの呼吸系の感染症に効果を発揮します。さらにヒソップには、発汗作用もあるので、熱が出て寒気がするときには、温かいハーブティーを飲むとよいです。

●抗菌・抗ウイルス効果
インフルエンザウイルスに感染して発症するのが、インフルエンザです。この感染力の強いインフルエンザにも免疫力を増強するのが、1,8シネオールです。この1,8シネオールが含まれているヒソップは、インフルエンザの予防に効果があります。さらにヒソップは、鼻咽腔と扁桃炎の連鎖球バクテリアや細菌に対して働きかける効果もあります。よってヒソップは抗菌・抗ウイルス効果をもっています。【2】【4】

●炎症を抑制する効果
ヒソップには、すり傷や切り傷などの炎症を抑える効果があります。皮膚に使われ、痛みや打撲、やけどには浸出液か浸出油をつけるとよいです。浸出液は、ハーブを熱湯で抽出することで得ることができます。葉や花、全草などは粗切りにしたものを使います。一方、浸出油はハーブをサンフラワーオイルやオリーブ油などの植物油で抽出することで得られます。またヒソップには抗ウイルス作用があるのでヘルペス[※4]が出来たときには、清潔なコットンに浸出液か浸出油をつけて患部を湿布するとよいとされています。【3】

[※3:アロマテラピーとは、花や木など植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)を用いて、健康増進や美容に役立てていこうとする自然療法です。]
[※4:ヘルペスとは、皮膚が赤くなり水泡ができる状態のことです。]

ヒソップはこんな方におすすめ

○咳や痰でお悩みの方
○免疫力を向上させたい方
○傷のダメージを抑えたい方

ヒソップの研究情報

【1】ヒソップの抽出物は、スクロース、マルトースを摂取させたマウスの急激な食後血糖値の上昇を初期段階で抑制することが分かり、また、過去の研究よりヒソップ抽出物は、α-グルコシダーゼを抑制することが分かりました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10012074238

【2】ヒソップ抽出物は、黒カビ(Aspergillus fumigatus)の細胞壁中にあるウロン酸、タンパク質、糖等の量を変化させることが分かりました。このことにより、黒カビの細胞自体を変化させることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16333566

【3】喘息を引き起こしたラットに対し、ヒソップを飲用させたところ、白血球の分化や炎症に関わるGATA-3やSTAT-3のmRNAの発現量が減少しましたが、T-betの発現量は増加したことが分かりました。これらのことから、ヒソップは、異なったT細胞(Th1、Th2、Th17)の転写レベルを調節することにより抗炎症作用を発揮することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21806885

【4】ヒソップオイルには、ピネカルボン20.3%、1,8シネオール12.2%、βピネン10.2%が主要に含まれ、合計で47種類の成分が含まれていることが分かりました。また、ヒソップは、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌、HIVなどに対して抗菌・抗ウイルス作用を有することが分かりました。

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参考文献

・ジニー・ローズ著 エッセンシャルオイル&ハーブウォーター375 BABジャパン

・川端一永、吉井友季子 自分で治せる!家庭でできる!医師が教えるアロマセラピー 世界文化社

・アースプランツ リサーチ オーガニゼーション監修 HERB BIBLE 双葉社

・佐々木薫監修 最新版 アロマテラピー図鑑 主婦の友社

・ヴィクトリア・ザック ハーブティーバイブル 東京堂出版

・佐々木 薫 ハーブティー事典 池田書店

・リエコ 大島 バークレー著 英国流メディカルハーブ 説話社

・ワンダ・セラー 著 アロマテラピーのための84の精油 フレグランスジャーナル社

・ハーブスパイス館 小学館

・大槻真一郎 ハーブ学名語源事典 中京堂出版

・Miyazaki HiroyukiMatsuura Hideyuki,Yanagiya Chikako , MIZUTANI Junya,
TSUJI Masayoshi, ISHIHARA Chiaki (2003) “Inhibitory Effects of Hyssop (Hyssopus officinalis) Extracts on Intestinal α-Glucosidase Activity and Postprandial Hyperglycemia” Journal of nutritional science and vitaminology 49(5), 346-349, 2003-10-01

・Ghfir B, Fonvieille JL, Dargent R. (1997) “Influence of essential oil of Hyssopus officinalis on the chemical composition of the walls of Aspergillus fumigatus (Fresenius).” Mycopathologia. 1997 Jul;138(1):7-12.

・Wang HY, Ding JB, Halmurat U, Hou M, Xue ZQ, Zhu M, Tian SG, Ma XM. (2011) “[The effect of Uygur medicine Hyssopus officinalis L on expression of T-bet, GATA-3 and STAT-3 mRNA in lung tissue of asthma rats].” Xi Bao Yu Fen Zi Mian Yi Xue Za Zhi. 2011 Aug;27(8):876-9.

・Fatemeh Fathiazad and Sanaz Hamedeyazdan (2011) “A review on Hyssopus officinalis L.: Composition and biological activities” African Journal of Pharmacy and Pharmacology Vol. 5(17), pp. 1959-1966, 8 November, 2011

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