イヌリン

inulin

イヌリンとは、キクイモやごぼう、にらなどに多く含まれる多糖類の一種です。
イヌリンは糖の吸収を抑制し血糖値の上昇を抑える働きがあり、糖尿病予防に効果的です。また、善玉菌を増やし、老廃物の排出を促すため、腸内の環境を整える効果も持っています。

イヌリンとは

●基本情報
イヌリンとは、キクイモやごぼう、にらなどの植物によって作られる多糖類の一種です。
多糖類とは、糖質の最小単位である単糖が多数結合したもののことをいいます。
イヌリンは砂糖やでんぷんなどの糖類の仲間ですが、人間はイヌリンを分解する酵素を持っていないため、イヌリンを含む食材を摂取してもほとんど吸収されずに体外へ排出されます。そのため、水溶性の食物繊維に分類され、腸内で発酵分解されるとフラクトオリゴ糖になることで知られています。
イヌリンは腸で水分を吸収するとゲル状になり、一緒に摂った糖質の吸収を抑える働きを持っています。また腸内で善玉菌のエサとなるため、腸内環境を整える効果を持ち、ダイエット食品などに多く利用されています。

●イヌリンと食物繊維の歴史
食物繊維の歴史は古く、古代ギリシャにまでさかのぼります。この頃から小麦ふすま[※1]は便秘予防に良いことは知られていましたが、食物繊維は吸収されない、必要な栄養素まで排出する成分だと考えられていました。
1930年代になって、アメリカの医学博士ケロッグが小麦ふすまに関心を持ち、便秘患者や大腸炎患者への影響を確認しました。その後1953年にイギリスの医師ヒップスレーが「dietry fiber(ダイエタリーファイバー)」という言葉を最初に導入しました。
1960年代に入ってからアフリカで医療活動をしていた医師たちによって、西欧諸国に多くみられる大腸疾患などの病気がアフリカで少ないのは、食生活の違いが原因ではないかと考えられ、さらに研究が進められました。1972年、イギリスの医師バーキットによって、欧米諸国に住む人と、アフリカ原住民の統計的な医学上の比較研究が発表されました。これは、欧米などの先進国では心臓病や糖尿病などが急速に増えているのに対し、アフリカの原住民はこれらの病気にかかる割合が低く、その背景には繊維質の摂取が関わっているという研究でした。この発表は、食物繊維の働きが世界的に注目されるきっかけとなったのです。
日本でも従来は無用の老廃物程度の認識しかされていませんでしたが、1997年に公表された「五訂日本食品標準成分表」 [※2]では、これまで炭水化物のうちの「繊維」としてきたものを、新たに「食物繊維」として独立させ、それぞれの食品ごとに「総量」「水溶性」「不溶性」を明示することになりました。
近年、食物繊維における難消化性ゆえの効果に関する研究が進み、現在では炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素に続く6番目の栄養素として重要視されるほどになりました。
イヌリンは食物繊維の中でも、血糖値を下げる効果があり、糖尿病に対する様々な研究が進められています。

●イヌリンの働き
イヌリンは糖質であるため、甘味料としても用いられますが、体内に吸収されることがないため、ダイエット食品などに多く使用されています。また水溶性の食物繊維のため、腸内で水分を吸収してゲル状[※3]になり、一緒に摂った糖質の吸収を抑制する働きがあります。また、腸内をゆっくりと移動し、腸のぜん動運動を促進します。
イヌリンは腸内ではじめて分解され、フラクトオリゴ糖となるため、腸内で善玉菌のエサとしても働きます。

[※1:小麦ふすまとは、小麦粒の表皮部分で、食物繊維や鉄、カルシウムなどが豊富に含まれています。]
[※2:五訂日本食品標準成分表とは、文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会が調査して公表している日常的な食品の成分に関するデータをまとめたものです。]
[※3:ゲル化とは、ヌルヌルとした粘性が凝固したもののことです。]

イヌリンの効果

●糖尿病を予防する効果
イヌリンは、水に溶けるとゲル化し、胃から小腸への食べ物の移動を緩やかにするため、糖質の吸収速度を緩慢にし、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐ働きがあります。糖尿病は、血糖を調節するために必要なインスリン[※4]が不足することによって起こる病気です。血糖の上昇が緩やかであればインスリンが無理なく作用し、不足することがなくなります。現代人は脂質や糖質の過剰摂取によってインスリンの産生に負担をかけ、インスリン不足となることから糖尿病が多いと考えられています。水溶性食物繊維は、糖質の吸収速度を緩慢にするため、インスリン産生に負担をかけないように働くことで糖尿病を予防する効果があります。

●腸内の環境を整える効果
イヌリンには、腸内の環境を整える効果があります。イヌリンは分解されるとフラクトオリゴ糖として働きます。フラクトオリゴ糖とは、ショ糖に1~3個の果糖が結合したもののことで、難消化性のオリゴ糖に分類されます。人間の腸内にはおよそ100種類、100兆個以上の腸内細菌が棲みついており、善玉菌と悪玉菌が常に勢力範囲を争っています。善玉菌が優勢を保っている時は腸の調子が良く、劣勢になった時は便秘などの症状として現れます。イヌリンは腸内で善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やし腸内の環境を整える効果があります。【1】【2】【3】

●ダイエット効果
イヌリンは、水溶性食物繊維であるため、腸のぜん動運動[※5]に働きかけ、便秘の解消にも効果的です。また、糖質でありながら体内に吸収されないため、ダイエットにも効果的な成分として知られています。
[※4:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]
[※5:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]

イヌリンは食事やサプリメントで摂取できます

イヌリンを多く含む食品

ごぼう
○キクイモ
にら

こんな方におすすめ

○糖尿病を予防したい方
○おなかの調子が気になる方
○ダイエット中の方

イヌリンの研究情報

【1】健常男性12名 (平均23.3歳) を対象とした臨床試験において、イヌリン含有シリアル (9 gイヌリン含有) を4週間摂取させたところ、血清総コレステロールおよび中性脂肪が減少し、腸内細菌環境が改善したことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10509770

【2】便秘症の高齢女性35名 (平均年齢76.4歳、対象群17名) を対象とした二重盲検無作為化比較試験において、ラクトースとイヌリンを20 g/日、8日間摂取後から40 g/日まで増量し、19日目まで摂取させたところ、腸内細菌環境と便通の改善が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9129468

【3】血漿中フェリチン濃度25μg/L未満の女性32名 (18~40歳、スイス) を対象とした二重盲検クロスオーバー無作為化プラセボ比較試験において、イヌリン平均20.2 g/日を4週間摂取させたところ、便のpHの低下、ビフィズス菌や乳酸塩の増加が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22743314

参考文献

・中嶋 洋子 著、阿部 芳子、蒲原 聖可監修 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・Brighenti F, Casiraghi MC, Canzi E, Ferrari A. (1999) “Effect of consumption of a ready-to-eat breakfast cereal containing inulin on the intestinal milieu and blood lipids in healthy male volunteers.”

・Kleessen B, Sykura B, Zunft HJ, Blaut M. (1997) “Effects of inulin and lactose on fecal microflora, microbial activity, and bowel habit in elderly constipated persons.” Am J Clin Nutr. 1997 May;65(5):1397-402.

・Petry N, Egli I, Chassard C, Lacroix C, Hurrell R. (2012) “Inulin modifies the bifidobacteria population, fecal lactate concentration, and fecal pH but does not influence iron absorption in women with low iron status.” Am J Clin Nutr. 2012 Aug;96(2):325-31. doi: 10.3945/ajcn.112.035717. Epub 2012 Jun 27.

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