メグスリノキエキス

Nikko Maple Nikko Ahorn
目薬木
Acer nikoense Maxim

メグスリノキエキスは、メグスリノキの樹皮や葉より抽出されたエキスのことで、眼病に対する効果や、肝機能を強化する効果があるとして、古くから民間薬として使用されてきました。
日本国内にのみ自生する固有種で、「飲む目薬」としても知られています。

メグスリノキエキスとは?

●基本情報
メグスリノキエキスは、メグスリノキの樹皮や葉より抽出されたエキスのことをいいます。
メグスリノキは、日本国内にのみ自生しており、本州では宮城・山形県以南、四国、九州の標高700m前後の産地に自生するカエデ科カエデ属の広葉樹で、樹高が10~25mの落葉高木です。イチョウのように雌雄異株[※1]で、5月~6月にかけて雌花、雄花ともに淡黄色の花を咲かせます。
古来より民間薬として親しまれ、メグスリノキの樹皮や葉を煎じた汁で洗眼すると眼病予防に効果があるということから、メグスリノキと名付けられました。自生する地域によっては、チョウジャノキ、センリガンノキ、ミツバナとも呼ばれています。
学名であるAcer nikoense Maximという名前は、江戸時代の終わり頃に世界的植物学者であるロシアのマキシモウィッチが函館に滞在した際、岩手県出身の須川長之助を助手として、日本各地で植物採集を行い、栃木県日光でメグスリノキを採取したことに由来して、「日光」という地名が入っています。
中国にはない日本の固有種であるため、漢字(中国)名はなく、カタカナで「メグスリノキ」と記されます。

●メグスリノキエキスの歴史
メグスリノキとしての歴史は古く、戦国時代すでに北近江(現在の滋賀県)や播州(現在の兵庫県)では眼病の特効薬として評判になっていたといわれています。
司馬遼太郎著の「播磨灘物語」には、戦国時代の名将、黒田如水(官兵衛孝高)の祖父である重隆が室町時代にメグスリノキから抽出したエキスで目薬をつくり、黒田家の礎を築くほどの財をなしたと記されています。
また、江戸時代になるとメグスリノキエキスを濃縮し、黒い飴のように固め、それを絹の小袋に入れハマグリの貝殻に封じたものが販売されるようになりました。これは使用時、小袋にを加えてもみ、にじみ出た液を指などにつけて目を洗うという膏薬(こうやく)型洗眼薬[※2]として使用されていたといわれています。
メグスリノキエキスは、その優れた効果から江戸時代頃までは人気がありましたが、西洋医学が日本国内でも主流となり発展してきた頃、その存在は少しずつ忘れ去られていきました。
しかし、山間地域では、かすみ目や疲れ目、二日酔いに良いということで、目や肝臓に効く「薬木」として珍重されており、眼病平癒で有名なお寺などでは、メグスリノキエキスが振る舞われたり、販売されたりしていたといわれています。
現在の顔を上に向けて薬液を滴下する点眼式の目薬が誕生したのは、1867年の「精錡水」が最初で、明治初期からは西洋医学の浸透によって、現在使用されている点眼式の目薬が主流になっていったといわれています。
メグスリノキは眼病や肝臓に良いということは知られていましたが、本格的にメグスリノキエキスについての研究がスタートしたのは、1971年頃です。
星薬科大学生薬学の名誉教授である伊沢一男が、薬用植物採集のフィールドワーク中に学生たちにメグスリノキを紹介したことがきっかけで、同大学生薬学教室が本格的な成分研究に着手するようになりました。
その後、1980年には目と肝臓に効果があるとして、「続・薬草カラー図鑑」にメグスリノキが掲載されています。
1983年にはモルモットを使った実験で、メグスリノキエキスが肝臓障害の予防効果があるとして学会発表され、目だけではなく肝臓にも良い成分として広く知られるようになりました。

●メグスリノキエキスに含まれる成分と性質
メグスリノキエキスの成分についての研究が1971年頃から行われてから、有効成分が次々と明らかになってきました。
葉と幹、樹皮で含まれる成分は異なりますが、主な有効成分としては炎症を抑制する働きのあるエピ・ロードデンドリンや利尿作用、血圧・血糖値降下の働きがあるα-アミリン、コレステロールの吸収を抑えるβ-システロール、アレルギー抑制作用のあるケルセチン、抗酸化力を持つエラグ酸、目の粘膜の保護・修復作用があるカテキンなどが知られています。
メグスリノキエキスが持つ主な作用の本体の成分としてはロドデンドリンと呼ばれる成分で、これに多様な成分が働くことで相乗効果を発揮しているのだと考えられています。
ロドデンドリンとは、シャクナゲなどにも含まれている成分で、加水分解することでロドデンドロールに変化します。
ロドデンドロールは、お茶などに含まれるタンニンの一種で、肝臓の働きを高める作用や、目の周りの水分を排泄する利水作用、気の流れを良くする通絡作用、血行を良くする活血作用などがあります。
このロドデンドロールの働きにより、肝臓の解毒作用[※3]が活発になり、肝機能が高まるといわれています。
樹皮が灰色がかった中に少し黒っぽい色が混ざっているのは、このロドデンドロールが含まれているからです。煎じて飲んだときに感じる苦みもこれによるものです。
また、葉に含まれているタンニン成分であるゲラニインには、抗菌作用があり、この作用がただれ目やはやり目、アレルギー性結膜炎などに効果的だということが報告されています。【2】

●メグスリノキエキスの使い方
メグスリノキエキスは、メグスリノキの小枝や葉を細かく刻み、乾燥させた5~15gを400~600mℓの水で煎じます。この煎じ汁を冷ましてから1日に数回洗眼するのが良いとされています。
また肝機能を強化するために用いる場合は、メグスリノキの樹皮、小枝、葉を用いて、10~20gを400~600mℓの水で煎じ、1日3回に分けて飲むのが良いとされています。
利尿作用があるため、体内の老廃物を排出するのにも役立ちます。

[※1:雌雄異株とは、植物の種で雌花をつける株と雄花をつける株の区別がある植物のことです。]
[※2:膏薬型洗眼薬とは、家庭薬として古くから使われてきた洗眼薬のことです。]
[※3:解毒作用とは、人間の体にとって有害なものを無毒化する作用のことです。]

メグスリノキエキスの効果

●眼病を予防する効果
メグスリノキエキスは、古くから眼病に効果的があるとして民間の洗眼薬としても親しまれてきました。
これはタンニン成分であるゲライニンが細菌の増殖を抑える抗菌作用や傷を修復させる収斂(しゅうれん)作用を持っており、流行性角結膜炎やものもらい(麦粒腫)、花粉症などによる目のかゆみであるアレルギー性結膜炎、目やに、かすみ目に効果的だといわれています。

●肝機能を高める効果
メグスリノキエキスは、肝機能の強化にも役立つ成分です。
葉や樹皮に含まれるロドデンドロールの働きにより、肝臓の解毒作用が活発になることからこの効果が知られています。
また、血清肝炎(B型肝炎)にも効果的と考えられており、皮膚や粘膜が黄色くなる黄疸症状がとれ、肝機能が回復するといわれています。【9】

<豆知識>肝臓と目の関係
古くから肝臓と目は密接な関係にあるといわれており、肝臓の機能が回復することで、目の機能も回復するといわれています。
中国では、「肝は目を穿(うが)つ」という言葉があり、中国医学の古典「傷寒論」や「素問」、「霊枢」などには「肝気は目に通ず、肝和すればすなわち、目は能く五色を分かつなり」(肝は目を通して外界と交流し、ものを見る目の機能に反映される。肝の働きが衰えると目が疲れやすくなり、逆に目を酷使すると肝の機能を損なうこともある)という記述があるほど、経験的に肝臓と目の関係性が知られていました。漢方で目の治療を行う際に、目そのものではなく肝臓の機能を強化する処方を用いるのは、このことからだといわれています。
肝機能が活性化することで、解毒作用が活発になり、虚弱体質が改善され、目の機能にも影響を及ぼすことから、メグスリノキエキスは、目と肝臓に良いといわれているのです。

●動脈硬化を予防する効果
葉に含まれるβ-アミリン、フラボノールのケルセチン、またその配糖体[※4]であるクエルシトリンが血管壁の硬化を防ぐ働きをすることで、動脈硬化を予防する効果があると考えられています。

●血糖値を下げる効果
メグスリノキエキスに含まれるタンニンには、血糖値を下げる効果があります。
そのため、糖尿病などの生活習慣病予防につながるとも考えられています。

[※4:配糖体とは、糖と様々な種類の成分が結合した有機化合物のことです。生物界に広く分布し,植物色素であるアントシアニンやフラボン類などがあげられます。]

メグスリノキエキスは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○目を長時間使うことが多い方
○目の病気を予防したい方
○肝臓の健康を保ちたい方
○動脈硬化を予防したい方
○血糖値が気になる方

メグスリノキエキスの研究情報

【1】メグスリノキ抽出物のサイクリックジアリルヘプタイドは、リポ多糖により生じるマクロファージからのNO産生を有意に抑制することがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22456895

【2】メグスリノキエキスは、ノルエピネフリンによる血圧上昇を抑制し、血管弛緩作用を示したとの報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17541175

【3】メグスリノキ樹皮抽出物は活性酸素除去作用を有し、その抗酸化力によりメラニン合成を抑制することがわかっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16946520

【4】TPAやエバンスブルー誘導の炎症作用をメグスリノキ抽出物が抑制し、抗炎症作用が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16651781

【5】メグスリノキエキスは一酸化窒素産生の抑制効果を有します。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12520130

【6】メグスリノキ茎抽出物はラット白血球の脱顆粒を抑制し、抗アレルギー作用を示すことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12520130

【7】メグスリノキエキス中のタンニン成分にはTNFα活性を有し、健康機能を有することが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11642320

【8】メグスリノキの有効成分rhododendrol 及びepi-rhododendrolは一酸化酸素産生抑制作用を示し、強力な抗炎症作用を示しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9810263

【9】メグスリノキエキスは肝障害抑制作用を有し、利胆作用を示すことが示されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1517975

もっと見る 閉じる

参考文献

・樹の散歩道 メグスリノキ
http://www.geocities.jp/kinomemocho/sanpo_megusurinoki.html

・豊機工有限会社 メグスリノキ
http://www.yutakakiko.co.jp/megusuri.htm

・Deguchi J, Motegi Y, Nakata A, Hosoya T, Morita H 2012 “Cyclic diarylheptanoids as inhibitors of NO production from Acer nikoense.” J Nat Med. 2012 Mar 29.

・Iizuka T, Nagumo S, Yotsumoto H, Moriyama H, Nagai M. 2007 “Vasorelaxant effects of Acer nikoense extract and isolated coumarinolignans on rat aortic rings.” Biol Pharm Bull. 2007 Jun;30(6):1164-6.

・Akazawa H, Akihisa T, Taguchi Y, Banno N, Yoneima R, Yasukawa K. 2006 “Melanogenesis inhibitory and free radical scavenging activities of diarylheptanoids and other phenolic compounds from the bark of Acer nikoense.” Biol Pharm Bull. 2006 Sep;29(9):1970-2.

・Akihisa T, Taguchi Y, Yasukawa K, Tokuda H, Akazawa H, Suzuki T, Kimura Y. 2006 “Acerogenin M, a cyclic diarylheptanoid, and other phenolic compounds from Acer nikoense and their anti-inflammatory and anti-tumor-promoting effects.” Chem Pharm Bull (Tokyo). 2006 May;54(5):735-9.

・Morikawa T, Tao J, Ueda K, Matsuda H, Yoshikawa M. 2003 “Structures of new cyclic diarylheptanoids and inhibitors of nitric oxide production from Japanese folk medicine Acer nikoense.” J Nat Prod. 2003 Jan;66(1):86-91.

・Morikawa T, Tao J, Ueda K, Matsuda H, Yoshikawa M. 2003 “Medicinal foodstuffs. XXXI. Structures of new aromatic constituents and inhibitors of degranulation in RBL-2H3 cells from a Japanese folk medicine, the stem bark of Acer nikoense.” Chem Pharm Bull (Tokyo). 2003 Jan;51(1):62-7.

・Okabe S, Suganuma M, Imayoshi Y, Taniguchi S, Yoshida T, Fujiki H. 2001 “New TNF-alpha releasing inhibitors, geraniin and corilagin, in leaves of Acer nikoense, Megusurino-ki.” Biol Pharm Bull. 2001 Oct;24(10):1145-8.

・Fushiya S, Kabe Y, Ikegaya Y, Takano F. 1998 “(+)-rhododendrol and epi-rhododendrin suppress the NO production by activated macrophages in vivo.” Planta Med. 1998 Oct;64(7):598-602.

・Nakamura H, Kumazawa N, Ohta S, Fujita T, Iwasaki T, Shinoda M. 1992 “[Protective effects of the fractions extracted from the callus of Acer nikoense Maxim. on alpha-naphthylisothiocyanate induced liver injury].” Yakugaku Zasshi. 1992 Feb;112(2):115-23.

・著者:志村二三夫、篠塚和正 編著者:清水俊夫 機能性食品素材便覧 薬事日報社

・編著者:原山建郎 最新・最強のサプリメント大辞典 昭文社

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ