vinegar 
vinaigre

酢とは古くから利用されている人類最古の調味料です。酢酸やクエン酸をはじめ、アミノ酸などの有機酸が豊富に含まれており、疲労回復や生活習慣病予防に効果的です。健康と美容に良いとされ、古くから多くの人々に親しまれてきました。

酢とは

●基本情報
酢とは、健康や美容のために古くから利用されている調味料です。
酢の酸味は、主成分である酢酸や各種有機酸によるものです。酢は有機酸の一種、クエン酸が豊富に含まれており、疲労回復に有効であるとされてきました。他にも殺菌作用や食欲増進作用、かたい肉を軟らかくするといった働きが知られており、古くから生活に取り入れられてきました。フランス語で酢を意味するvinaigre(ビネーグル)という言葉は、vin(ぶどう酒)+aigre(すっぱい)を合わせてできた言葉です。つまり、「酢」とは「お酒がすっぱくなったもの」という意味です。
酢には米酢や黒酢などの食酢といわれる食べ物を原料にした醸造酢と、酢酸や氷酢酸(ひょうさくさん)[※1]を薄め、アミノ酸などを加えた合成酢、また酢を基本として他の調味料などと合わせて調味したすし酢や梅酢などの合わせ酢等があります。

<豆知識>酢の様々な利用法
酢は調味料として使用する以外にも、生活の中の様々な場面で活用することができます。
水周りのシンクの汚れや木製のフローリングの汚れ、鍋の焦げ付きなどに酢を活用するときれいに汚れを落とすことができます。
また山芋や里芋の皮をむく際は、事前に酢を薄めたものを手につけたり、芋を酢水で洗ったりするとかゆみを防ぐことができます。

●酢の歴史
酢の起源は世界各国およそ共通で、果物からつくられた酒が変化したものといわれています。
酢の起源は古く、世界で最も古い酢は紀元前5000年前のバビロニアでつくられたといわれています。干しぶどうなどから酒やビールがつくられたとの記録があることから、酢も同じ時期に誕生していたと考えられています。旧約聖書にも、酢は飲み物として登場しています。ギリシャの医学者であるヒポクラテスは病み上がりの病人に酢の摂取をすすめていたり、中国・周の時代には漢方薬として酢が利用されていたりと、古くから酢は健康に良いとして親しまれていたことが分かります。
日本で酢が利用されるようになったのは4~5世紀頃といわれており、和泉の国に中国から酒づくりの技術と共に米酢の醸造技術が伝えられたのが始まりであると考えられています。奈良時代には、酢は上流社会の高級調味料として利用され、庶民には手の届かない贅沢品でした。万葉集には酢に関する歌が詠まれており、これが日本での最古の酢に関する記録であるとされています。また養老律令(ようろうりつりょう)[※2]には、酒と共に酢をつくっていたことが記録されています。平安時代の延喜式[※3]には、原料の使用割合まで書かれた米酢のつくり方が記録されています。室町時代には、四条流包丁書という料理書に魚の種類に合わせて使用する「合わせ酢」の紹介があります。酢が調味料として一般社会に広まったのは江戸時代になってからとされています。

●酢の種類
酢は大きく分けて醸造酢と合成酢に分けられます。醸造酢は更に穀物酢と果実酢に分けられます。
穀物酢とは、米、大麦、小麦、酒粕、とうもろこしなどの穀物を原料として製造されたもので、米酢や粕酢、麦芽酢、黒酢などが含まれます。果実酢は、1ℓにつき1種類、または2種類の果実の搾り汁を使用したもので、りんご酢やぶどう酢などがあります。
また「酒のあるところ、かならず酢あり」という言葉があります。世界中には4000種類もの酢があるといわれ、ワインで有名なフランスやイタリア、スペイン、ポルトガル、ドイツなどにはワインビネガーがあり、北イタリアのモデナ地方では伝統的な酢であるバルサミコ酢などが代表的です。その他では紹興酒などで有名な中国には伝統的な酢である香酢、ビールの醸造が盛んなイギリスにはモルトビネガー(麦芽酢)、ジンで有名なオランダやアルゼンチンにはホワイトビネガーなどがあります。フィリピンではパイナップルビネガーやココナッツビネガーなど、日本ではあまり馴染みのない酢もつくられています。

●酢に含まれる成分と働き
酢の主成分は酸味のもとである酢酸やクエン酸、グルコン酸、りんご酸、酒石酸などの有機酸です。
酢酸やクエン酸は体内に入った栄養素や疲労によって蓄積した乳酸を燃焼させ、エネルギーを生み出すクエン酸回路[※4]の働きをサポートするため、疲労回復に効果的です。また酢には、乳酸の蓄積を抑えて血液中の乳酸の上昇を抑制する効果もあります。
酢に含まれるアミノ酸などの有機酸は、血液をサラサラにしたり、血行を良くする働きがあり、殺菌効果や夏バテ予防、免疫力向上の働きも期待できます。他にも、カルシウムやマグネシウムの吸収を助けたり、胃酸の分泌を高めて消化を促進する、食欲増進作用の働きもあります。
また酢は黒酢や香酢、もろみ酢など種類によって含まれる成分がそれぞれ異なり、色や味わい、風味、旨みなども異なります。
黒酢は玄米を原料に発酵・熟成させ、麹菌などの作用で琥珀色に色づいたものであり、たんぱく質の構成成分であるアミノ酸や、無機栄養素であるミネラル類が豊富に含まれており、疲労回復をサポートしてくれます。
香酢はもち米からつくられるお酢で、香り高くまろやかな酸味を持っており、通常の酢のような刺激味が少なく、濃厚な風味が特徴です。香酢は酢酸とアミノ酸が豊富に含まれているため、血液をサラサラにしてコレステロール値や血糖値の減少、疲労回復などに効果があります。
また、もろみ酢は泡盛からできた天然醸造酢で、原料に麹菌を加え、さらに酵母で発酵させてからアルコール分を取り除いてつくられます。もろみ酢は製造過程で生成されるクエン酸やアミノ酸が豊富に含まれ、疲労回復や脂肪燃焼、リラックス効果などの働きがあります。

[※1:氷酢酸とは、純度96%以上の酢酸を指します。融点が低く、室温で結晶化するためこの名が付けられました。]
[※2:養老律令とは、757年に施行された基本法令です。大宝律令に続く律令として施行され、古代日本の政治体制を規定する根本法令として機能しました。]
[※3:延喜式とは、平安時代中期に施行された格式のことです。三大格式のひとつであり、ほぼ完全な形で今日に伝えられている唯一の格式といわれ、日本古代史研究に不可欠な文献です。]
[※4:クエン酸回路とは、体内に入った食物を燃焼させエネルギーをつくり出す、一連の流れのことです。]

酢の効果

酢には酢酸やクエン酸をはじめ、アミノ酸などの有機酸が豊富に含まれており、以下のような健康効果が期待できます。

●疲労回復効果
人が疲れを感じるのは、乳酸と呼ばれる疲労物質が体内に蓄積しているためです。乳酸は通常なら代謝によって自然と消費されますが、代謝機能が衰え乳酸が体内に増えると体の様々な筋肉の中に溜まってしまい、疲労を感じるようになります。酢に含まれる酢酸やクエン酸が、クエン酸回路の働きをサポートすることで、乳酸が分解され疲労回復につながります。
クエン酸回路とはクエン酸が働きかけることにより、乳酸や糖質が分解されエネルギーに変わるサイクルのことです。このサイクルがうまく機能することで、私たちは疲労が回復したと感じます。酢には、酢酸やクエン酸が豊富に含まれているため、クエン酸回路の働きが強力にサポートされ、疲労回復に効果的であると考えられています。
また、酢には乳酸の蓄積を抑えて血液中の乳酸の上昇を抑制する効果もあるため、疲労を回復するだけでなく、疲労が溜まりにくい体をつくる働きもあります。

●血流を改善する効果
血中コレステロール値や中性脂肪値、血糖値が高い人の血液はドロドロであるといわれています。血液がドロドロになるのは、栄養バランスの悪い食生活や睡眠不足、喫煙、ストレスなど生活習慣の乱れが大きな原因です。血液がドロドロになると、血流が悪くなり滞った状態となります。この状態が悪化すると高脂血症[※5]になります。高脂血症をそのまま放置すると、血栓が発生し、動脈硬化を引き起こしてしまう危険性が高まります。動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞といった生活習慣病の発症リスクを高めるという指摘もあり、注意が必要な症状です。
酢に含まれるアミノ酸やクエン酸などの有機酸は、血流を改善し、サラサラの血液にする効果があります。生活習慣病予防やコレステロール値や血糖値、血圧の減少に効果的です。

●食欲増進効果
酢には胃酸の分泌を促し、消化や吸収を助ける働きがあります。また唾液の分泌も促進することから、夏バテの時や食欲のない時にも効果的です。

●美肌効果
酢には肌荒れの原因となる過酸化脂質[※6]の増加を防ぎ、肌を健康な状態に保つ働きがあります。ビタミンCを破壊する酵素の働きを抑え、シミやそばかすの予防に効果的です。

●骨粗しょう症を予防する効果
酢には、他の栄養素の体内への吸収量を増やしてくれる働きがあります。酢に含まれるクエン酸は、カルシウムが吸収されやすい状態をつくり出し、カルシウムの体内吸収量を増やします。カルシウムの吸収量が増えると、骨粗しょう症[※7]の予防やイライラを防止する効果が期待できます。また、マグネシウムの吸収も助けるので、酢を調味料として様々な料理に混ぜると、栄養素を効率よく摂ることができます。

[※5:高脂血症とは、血液中に溶けているコレステロールや中性脂肪値が必要量よりも異常に多い状態をのことです。コレステロールは過剰になると体に障害をもたらします。糖尿病と同様に自覚症状に乏しく、動脈硬化によって重篤な病気を引き起こすのが特徴です。]
[※6:過酸化脂質とは、コレステロールや中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化されたものの総称です。]
[※7:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]

酢はこんな方におすすめ

○疲労を回復したい方
○コレステロール値が高い方
○生活習慣病を予防したい方
○骨粗しょう症を予防したい方
○食欲不振の方
○美肌を目指したい方

酢の研究情報

【1】大腸炎マウスに対して、黒酢含有たんぱく質を摂取させると、抗酸化作用によって潰瘍性大腸炎が緩和されたことから、黒酢が潰瘍性大腸炎予防効果を持ち、腸の健康を維持するはたらきを持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21948567

【2】10名の女性を対象に黒酢を1日あたり50ml を1カ月間摂取させたところ、酸化ストレスおよび血液濾過時間が低下したことから、黒酢は抗酸化作用により血流を改善するはたらきを持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21125203

【3】マウスに、黒酢を1日あたり100mg/kg を4週間摂取させたところ、皮下脂肪組織および腎周囲の脂肪組織のサイズが縮小しました。また、黒酢を3T3-L1前脂肪細胞に添加したところ、脂肪酸結合たんぱく質とペルオキシソーム増殖活性因子のmRNAの発現が抑制されたことから、黒酢が抗肥満作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21092258

【4】高コレステロール血症ウサギに、酢を摂取させたところ、LDLコレステロール、アポB100たんぱく質、および総コレステロールで改善が見られたことから、酢が動脈硬化予防効果や高コレステロール血症予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20109192

【5】日本人を対象に酢を1日当たり500ml を12週間摂取させたところ、BMI、内臓脂肪面積、ウエスト周囲径に改善が見られたことから、酢が抗肥満作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19661687

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参考文献

・NPO日本サプリメント協会 (2008) “サプリメント健康バイブル” 株式会社小学館

・本多京子、根本幸夫、伊田喜光、田口進 (2002) “食の医学館―体に効く食品を全網羅” 株式会社小学館

・Shizuma T, Nagano M, Fujii A, Mori H, Fukuyama N. 2011 “Therapeutic effects of four molecular-weight fractions of Kurozu against dextran sulfate sodium-induced experimental colitis.” Turk J Gastroenterol. 2011 Aug;22(4):376-81.

・Nagashima M, Saito K. 2010 “Antioxidant activity of the new black vinegar ‘IZUMI’.” J Nutr Health Aging. 2010 Dec;14(10):845-9.

・Tong LT, Katakura Y, Kawamura S, Baba S, Tanaka Y, Udono M, Kondo Y, Nakamura K, Imaizumi K, Sato M. 2010 “Effects of Kurozu concentrated liquid on adipocyte size in rats.” Lipids Health Dis. 2010 Nov 23;9:134.

・Setorki M, Asgary S, Eidi A, Rohani AH, Khazaei M. 2010 “Acute effects of vinegar intake on some biochemical risk factors of atherosclerosis in hypercholesterolemic rabbits.” Lipids Health Dis. 2010 Jan 28;9:10.

・Lipids Health Dis. 2010 Jan 28;9:10. 2009 “Vinegar intake reduces body weight, body fat mass, and serum triglyceride levels in obese Japanese subjects.” Biosci Biotechnol Biochem. 2009 Aug;73(8):1837-43.

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