西洋ヤナギ

willow bark   white willow

西洋ヤナギは古くから熱や痛みの緩和に有効とされており、中世にはドイツや南ヨーロッパ、南アメリカで民間療法に利用されていました。現代では、西洋ヤナギの樹皮と新芽から抽出したエキスが、関節痛やリウマチを改善するための栄養補助食品に用いられています。

西洋ヤナギとは

●基本情報
西洋ヤナギはヨーロッパ、アジアおよび北米の一部に生育する高さ25ⅿ程のヤナギ科ヤナギ属の植物で、ヨーロッパからアジア、北アフリカに広く分布しています。
古くからヤナギの樹皮には鎮痛効果があることが知られています。お釈迦様はヤナギの枝でできた楊枝や歯ブラシを使うと歯の痛みが楽になることを知っていたのだろうといわれており、「お釈迦様がいつもヤナギの枝をくわえていた」とお経にも書かれているほどです。
また、日本でもかつて「柳箸やヤナギでつくった楊枝を使うと歯がうずかない」という伝承があったように、ヤナギの樹皮や葉には抗炎症作用があることが知られていました。日本で現在販売されている楊枝は、サリチル酸や虫歯予防に有効といわれるキシリトールを含んでいる白樺を材質とするものが多く使われています。
西洋ヤナギの有効成分はサリシンという物質で、植物が厳しい環境下でも生育できるよう西洋ヤナギ自身がつくり出す成分です。

●西洋ヤナギの歴史
2300年前にヒポクラテスが「ヤナギの皮を煎じて飲むと痛みがとれる」と著書に書いてあるほど、古くから鎮痛・解熱作用があることが知られていました。
ヨーロッパの伝統医療において、西洋ヤナギの樹皮は沈痛・抗炎症のために利用されていました。
また、中世には薬草売りの女性たちがヤナギの樹液を煮て、痛みを訴える人々にその苦い煎じ湯を分け与えていました。しかし、籠をつくるためにヤナギの木が緊急に必要とされるようになり、ヤナギをつむことが罰せられるようになったため、この自然の特効薬は忘れられていきました。
19世紀にフランスの科学者により、西洋ヤナギの樹皮や新芽から鎮痛効果を持つ主要成分が分離され、「サリシン」と名付けられました。
サリシンは当時最大のシェアを占めていた「キニーネ」という鎮痛効果がある成分に代わり、天然の医薬品とされ、使用されるようになりました。
しかし化学技術の進歩により、サリシンを分解してつくられるサリチル酸が開発されるとサリシンは市場から姿を消していきました。
その後、解熱剤としてサリチル酸をさらに加工したアセチルサリチル酸(アスピリン)が開発されましたが、アスピリンは胃腸障害などの副作用があるとされ、植物療法として西洋ヤナギに含まれるサリシンが再び注目されるようになり、現在では健康食品などの原料として使用されています。

<豆知識>サリシンとアスピリン
解熱鎮痛剤の代表であるアスピリンが発明されたきっかけは、西洋ヤナギです。
ギリシャ時代に有名だった医者であるディオスコリデスの著作『薬物学』の中でも、西洋ヤナギの一種である西洋シロヤナギの煎じ薬は痛風に効果があると書かれています。
西洋シロヤナギとはユーラシア大陸に分布し、ヨーロッパ全域の川岸などの水辺に見られる植物です。ディオスコリデス以来、ヨーロッパ人は何世紀もの間、痛み止めとして西洋シロヤナギと数種類のヤナギの葉や樹皮の煎じ薬を用いていたといわれています。
有効成分であるサリシンの分離を多くの科学者が試みましたが、実際に分離されたのは1819年のことです。
ヤナギ(Salix)属から分離されたことからサリシンと名付けられました。
さらに1827年には、バラ科の西洋ナツキソウの葉に含まれるサリシンが純粋な状態で結晶化されました。
サリシンは内服できない程ひどい苦みを持つ成分だったため、実際に薬として使用されることはありませんでした。
このサリシンの唯一ともいえる欠点を克服するため、ヨーロッパの科学者は代替品を求め続けました。そして、1838年になって、サリシンの分解物であるサリチル酸が発見されました。サリチル酸は無味だったのですが、胃の粘膜を損傷するほどの刺激を持っていたため、内服薬として使用されることはありませんでした。
容易に内服できる鎮痛薬は、サリチル酸をアセチル化[※1]することによってつくられたアセチルサリチル酸(アスピリン)を利用して1897年に製造されました。
アスピリンは現在でも医師の処方箋なしで購入できる鎮痛剤として、世界中で愛用されています。

●西洋ヤナギに含まれる健康成分
西洋ヤナギにはサリシンをはじめ、フラボノイド類やプロシアニジン類などのポリフェノール化合物が含まれています。
これらも有効成分のひとつであると考えられており、血流改善・関節炎鎮静・鎮痛作用が期待されます。

[※1:アセチル化とは、有機化合物中にアセチル基が導入される反応のことです。]

西洋ヤナギの効果

西洋ヤナギにはサリシンをはじめ、フラボノイド類やプロシアニジン類などのポリフェノール化合物などの有効成分が豊富に含まれるため、以下のような健康に対する効果が期待できます。

●痛みを軽減する効果
西洋ヤナギに含まれるサリシンは体内に入るとサリチル酸に姿を変えます。このサリチル酸が痛みを軽減する効果を発揮します。
プロスタグランジンは体の各部位の痛みを検知して、知らせてくれる働きをします。
サリチル酸は、この物質の生成を抑えて、痛みを知らせないようにしてくれます。
【1】【2】【5】

●炎症を抑制する効果
体内に細菌が侵入したり毒素が産生されると、局所に炎症反応が起こり、全身へ毒素が拡散することを防ぎます。
炎症は本来、生体の合目的的な防御反応ですが、過剰な炎症反応は生体の自己組織の損傷を引き起こす危険性があります。また過剰な炎症反応は、痛みも引き起こします。
炎症には、主に熱感、発赤、疼痛、腫脹の症状が見られます。これらの症状は炎症の四徴といわれ、患部でプロスタグランジンなどを産生し、患部の血流を増加させ治癒を促進させようとする反応です。
西洋ヤナギに含まれるサリシンは、体内に入るとサリチル酸に姿を変えます。このサリチル酸が炎症を抑える効果を発揮します。
サリチル酸は、体の各部位の炎症を引き起こすプロスタグランジンの働きを抑えて、炎症を鎮める働きがあります。【3】【4】【5】

●解熱効果
発熱は、体が身を守るための生体防御機能のひとつです
ウイルスなどの有害物質が体内に侵入してきた際に、視床下部[※2]の体温調節中枢は身体各部に体温を上げるように指令を出します。この命令にもとづいて、皮膚の血管が収縮し汗腺を閉じるなど、熱放散を抑える活動が開始されます。また、筋肉をふるえさせて熱産生を促します。これらの活動により、体温は上昇します。
西洋ヤナギに含まれるサリシンは体内に入るとサリチル酸に姿を変えます。
サリチル酸には発熱に関わる物質プロスタグランジンE2の産生を抑え、平熱まで体温を低下させる働きがあります。【4】

●関節痛の症状を緩和する効果
変形性膝関節症とは、関節の軟骨がすり減ったために関節に痛みを生じ、関節の変形をきたす病気です。
西洋ヤナギには鎮痛、炎症を抑える効果があることから、変形性関節症による痛みや炎症も抑える効果があるといわれています。また、西洋ヤナギを用いた実験により、変形性関節症を改善する効果があるという報告もあります。
同様に関節リウマチでも実験が行われており、改善する可能性があると期待されています。【2】

●腰痛を改善する効果
脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)は腰椎内部の神経の通路である脊柱管が狭くなり、神経組織が圧迫されることにより発症する病気です。医学的には様々な異なる病態を含む疾患群ですが、一般的に日本では脊椎の変性や変性すべり症[※3]によって起こる変性脊柱管狭窄症のことを指します。最も多い原因は加齢であるといわれています。
また、腰痛の患者に西洋ヤナギの抽出物を摂取させたところ、腰痛が改善したという実験結果が出ています。【1】【5】

[※2:視床下部とは、大脳と中脳の間に位置し、自律神経の中枢となる部分です。脳の他の部分と連携しながら、消化や吸収、体温調節、免疫の働きなど、生命機能に大きく関わっています。]
[※3:すべり症とは、体が成長していない小学生から中学生に最も多く発症する症状です。腰椎を支える筋肉やじん帯、椎間板などの組織が健康な状態を失うことで、腰椎が前後へと少しずつ滑ってしまう現象のことです。]

西洋ヤナギはこんな方におすすめ

○炎症や痛みを抑えたい方
○熱を下げたい方
○関節痛でお悩みの方
○腰痛でお悩みの方

西洋ヤナギの研究情報

【1】慢性腰痛患者210名を対象に、西洋ヤナギの樹皮抽出物(サリシンとして、1日あたり120, 240mg) を4週間摂取させたところ、腰痛の改善がみられたことから、西洋ヤナギに腰痛の鎮痛効果があることが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10936472

【2】変形性関節症患者78名を対象に、西洋ヤナギ樹皮抽出物(サリシンとして、1日あたり240mg) を2週間摂取させたところ関節痛に改善がみられたことから、西洋ヤナギに変形性関節症に対する鎮痛効果があることが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11406860

【3】ヒトの細胞(単球細胞やマクロファージ)に対して、西洋ヤナギ樹皮抽出物を投与したところ、炎症関連酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)及び炎症関連物質TNF-α のはたらきが阻害され、炎症が抑制されたことから、西洋ヤナギ樹皮抽出物は抗炎症作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20570123

【4】西洋ヤナギ樹皮抽出物は、炎症系の酵素シクロオキシゲナーゼやプロスタグランジンE のはたらきを抑制することで、抗炎症作用をもつことが知られており、西洋ヤナギ抽出物として1575mg、西洋ヤナギ抽出物の有効成分サリシンとして240mg を摂取することで、抗炎症作用を示すと報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12844141

【5】慢性腰痛患者、股関節膝変形関節症において、西洋ヤナギ樹皮抽出物を15.2% 含有もしくはサリシン240mg を摂取させると、関節痛が緩和されました。西洋ヤナギ樹皮抽出物には炎症関連酵素シクロオキシゲナーゼ(COX) を抑制するはたらきがあり、抗炎症作用を示すほか、弱いながらも血小板凝集抑制作用も持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12244878

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参考文献

・蒲原聖可 サプリメント事典 平凡社

・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社

・Chrubasik S, Eisenberg E, Balan E, Weinberger T, Luzzati R, Conradt C. 2000“Treatment of low back pain exacerbations with willow bark extract: a randomized double-blind study.” Am J Med. 2000 Jul;109(1):9-14.

・Schmid B, Lüdtke R, Selbmann HK, Kötter I, Tschirdewahn B, Schaffner W, Heide L. 2001 “Efficacy and tolerability of a standardized willow bark extract in patients with osteoarthritis: randomized placebo-controlled, double blind clinical trial.” Phytother Res. 2001 Jun;15(4):344-50.

・Bonaterra GA, Heinrich EU, Kelber O, Weiser D, Metz J, Kinscherf R. 2010 “Anti-inflammatory effects of the willow bark extract STW 33-I (Proaktiv(®)) in LPS-activated human monocytes and differentiated macrophages.” Phytomedicine. 2010 Dec 1;17(14):1106-13.

・Fiebich BL, Appel K. 2003“Anti-inflammatory effects of willow bark extract.” Clin Pharmacol Ther. 2003 Jul;74(1):96; author reply 96-7.

・März RW, Kemper F. 2002 “Willow bark extract–effects and effectiveness. Status of current knowledge regarding pharmacology, toxicology and clinical aspects.” Wien Med Wochenschr. 2002;152(15-16):354-9.

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