ブッチャーズブルーム

butcher’s broom
ナギイカダ

古くからヨーロッパでハーブティーとして親しまれてきたブッチャーズブルームには利尿作用があるとされ、むくみを改善したり動脈硬化を予防する働きがあるといわれています。
ドイツではブッチャーズブルームはメディカルハーブとして、様々な症状を改善する医薬品として使用されています。

ブッチャーズブルームとは

●基本情報
ブッチャーズブルームは和名をナギイカダといい、北西ヨーロッパから地中海沿岸にかけての地域を原産とするユリ科の植物です。
ブッチャーズブルームとは「肉屋のほうき」という意味で、20世紀までイギリスでブッチャーズブルームの枝を束にしたものが、肉屋でほうきとして使用されていたことが由来であるといわれています。
ブッチャーズブルームは20~40㎝の高さに育ち、白色の花を咲かせた後に直径6~10㎝程の赤色の果実をつけます。
葉のように見える仮葉枝(葉状枝)と呼ばれる部分に花が咲くため、葉の上に花が咲いているように見えます。長い間、この仮葉枝は茎なのか葉なのかという論争が続いていましたが、遺伝子の研究から葉と茎の両方を合わせ持った器官であることが判明しています。ブッチャーズブルームの根と若い茎は薬用に使用されています。古代からブッチャーズブルームの根が利尿薬として泌尿器疾患の治療に使用されていたといわれています。
ヨーロッパでは古くから利尿作用や便秘解消などに効果があるとされてきました。
1950年代、ブッチャーズブルームの茎根には、血管を収縮し、炎症を抑える働きを持つルスコゲニンとネオルスコゲニンと呼ばれるステロイド成分が含まれていることが発見されました。そのため、ブッチャーズブルームは関節炎やリウマチによる腫れや痛みの緩和、末梢血管での血液の滞りによっておこるむくみや炎症などのトラブルなどに用いられるようになりました。
また、ブッチャーズブルームは体の内側から毒素を取り除き、新しいエネルギーを補充するために最適なハーブともいわれています。

●ブッチャーズブルームに含まれる成分
ブッチャーズブルームには、サポニンの一種であるルスコゲニンやネオルスコゲニンが含まれています。
ルスコゲニンやネオルスコゲニンは強い抗酸化力[※1]を持っており、体内の脂質コレステロールの酸化を防ぎます。脂肪が酸化すると、過酸化脂質となって血管にこびりつき動脈硬化などの原因になるため、健康維持のためには脂肪の酸化を抑えることが非常に重要であるといわれています。
また、中性脂肪が増えすぎると血中コレステロール値が上昇して、生活習慣病などの原因となります。
ルスコゲニンやネオルスコゲニンには、毛細血管を広げてスムーズな血流を促す効果もあります。血管が広くなることによって、血栓などがつくられることが予防できたり、体を温めて冷えを解消する効果もあります。
ルスコゲニンやネオルスコゲニンには、血液の凝固を防ぎ、流れをスムーズにすることで血圧を下げる働きもあります。血圧の上昇は、動脈硬化をはじめ、心筋梗塞や脳卒中などの深刻な病気を引き起こすため、血圧を正常に保つことが必要であるとされています。
ブッチャーズブルームには内出血しやすい毛細血管を修復し、足のむくみや血行不良の改善、さらに溶血作用や動脈硬化の抑制や造血作用を高める働きがあると期待されています。

<豆知識>むくみの原因
むくみは、女性をはじめ悩んでいる方が多い症状のひとつです。
まぶたが腫れぼったい、夕方になると靴がきつくなる、靴下の跡が取れにくくなるなどの症状が現れます。
むくみの主な原因は、水分や塩分の摂り過ぎであるといわれています。
女性であれば、生理中や妊娠時、また産後などにもむくみの症状が出ることがあります。
また、長時間の立ち仕事やデスクワークなど、同じ姿勢を維持した場合も全身の血行が悪くなり、血行が阻害されることで、ふくらはぎのむくみや足首の痛みなどの症状が出る場合もあります。
他にも、運動不足や睡眠不足、エアコンなどが原因の冷え、ストレスなどの生活環境、足を締め付けるような靴や極端にヒールの高い靴なども足のむくみの原因となります。
足は心臓から遠いため、むくみが出やすい場所です。足に行った血液は、ポンプ的な役割を担っているふくらはぎの筋肉が、重力に逆らって足の血液を心臓に戻すことを手伝っています。
しかし、足の筋肉の疲労などにより、時間が経つにつれてふくらはぎの筋肉がポンプの役割を果たせなくなり血流が悪くなります。また、女性は男性よりも筋肉の量が少ないため、むくみが起きやすいといわれています。
足などの一定の場所に水分が溜まるという症状は、足のむくみだけでなく、顔のむくみの場合であってもほぼ原理は同じであると考えられています。

むくみの主な原因には、以下のようなことが挙げられます。
・アルコールの摂取
アルコールを摂ると、血液中のアルコール濃度が高くなり、血管が拡張して静脈やリンパによる水分の処理が間に合わなくなるため、むくみやすくなります。
・塩分の取りすぎ
塩分を摂り過ぎると、体内で余分な水分が増えるため、むくみが進行しやすくなります。
ミネラル不足
特にカリウムマグネシウムなどの不足がむくみにつながります。
・新陳代謝の低下
新陳代謝が低下すると血行が悪くなり、リンパの働きが低下することでむくみが起こる場合があります。
・腎機能の低下
腎機能が低下している際は水分の排出がうまくできないことにより、むくみの症状が現れる場合もあります。

[※1:抗酸化力とは、体内で発生した活性酸素を抑制する力のことです。]

ブッチャーズブルームの効果

ブッチャーズブルームには、ルスコゲニンやネオルスコジニンなどの有効成分が含まれており、以下のような健康に対する効果が期待できます。

●慢性静脈不全を改善する効果
慢性静脈不全とは、静脈の滞りが慢性化して、下肢に血液がうっ滞することで起こる病気のことです。
下肢の血液は、静脈内を下から上に流れ心臓に戻っていきます。静脈には、血液が重力に負けて下へ逆流しないようにくい止めるための弁がついています。この逆流防止弁は、足の付け根や膝の裏などの太い静脈血管の合流部で壊れやすく、逆流防止弁が壊れると血液は逆流し、足の下の方に血液が溜まり、静脈がこぶのように膨らみます。
慢性静脈不全は足の血管が浮き出て見えたり、足のむくみや痛み、だるさ、重さ、疲れ、足のつり(こむらがえり)、皮膚の黒ずみなどの症状が現れます。
また、ブッチャーズブルームは逆流阻止弁の動きを維持し、硬くなって縮んだ血管を柔軟にして内部を広げ、血行を良くすることにより、慢性静脈不全の症状を改善する効果もあるといわれています。【1】【2】

●むくみを改善する効果
ブッチャーズブルームに含まれているルスコゲニンが表皮の微小循環[※2]を促進し、むくみを取り除く作用に大きく貢献していると考えられています。さらに、穏やかな利尿作用があることも、ブッチャーズブルームにむくみを改善する効果があるといわれている大きな理由です。【3】
足のむくみ解消にはブッチャーズブルームの根の部分が用いられます。ブッチャーズブルームの根の抽出エキスには、下肢静脈瘤[※3]などの足の血行不良によるむくみを改善する効果があることが報告されています。
30歳から89歳までの慢性静脈不全患者166人を含む被験者を対象とした試験を行った結果、ブッチャーズブルームの根のエキスの摂取により、むくみの症状が改善されることが証明されています。
また、細かい分析の結果、ブッチャーズブルームを摂取した8時間後には、足部の体積が16.5mℓ、12週間後には20.5mℓも減少し、摂取後12週間後の足首囲と足囲はひきしまり、足のだるさや緊張などの主観的症状も改善されました。
この実験により、ブッチャーズブルームの根から抽出されるエキスには静脈血管を収れん(引き締めること)して、血行を促進する効果があることが証明されました。

●セルライトを改善する効果
ブッチャーズブルームは、血流を良くし細胞に栄養分を届けたり、細胞の中に溜まった不純物を取り込んで排泄するなど、毛細血管壁の透過性を適正にする働きがあるといわれています。足のむくみを解消すると同時に浮き出た血管を目立たなくし、むくみによる痛みや血行不良、セルライトの改善が期待できます。【3】

●痔核を改善する効果
ブッチャーズブルームには肛門周辺のうっ血を防ぎ、痔核を改善する働きがあるといわれています。【2】【3】

●抗炎症作用
ブッチャーズブルームは、炎症関連酵素シクロオキシゲナーゼのはたらきを抑制し、白血球による炎症反応を緩和する働きを持ち、抗炎症作用を持つことが報告されています。【4】【5】

●動脈硬化を予防する効果
日常生活で体内に発生する活性酸素[※4]は、血中の脂質を酸化させ過酸化脂質を産生します。
この過酸化脂質が血管の壁にこびりつくことにより、動脈硬化が起こります。
ブッチャーズブルームには動脈硬化の原因にもなる過酸化物質の生成を抑える働きがあります。
また、ブッチャーズブルームには、血小板の凝集抑制を持ち、血液の流れを良くするため、動脈硬化の予防だけでなく冷え症の改善やダイエットにも効果的であると考えられています。

[※2:微小循環とは、毛細血管網とその輸入・輸出血管である細動脈,細静脈を一括した名称です。]
[※3:下肢静脈瘤とは、足の静脈の流れが滞り、血管が浮き出たり足がむくんだりする症状のことです。]
[※4:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]

ブッチャーズブルームはこんな方におすすめ

○下肢のむくみや腫れ、痛み、しこりなどが気になる方
○足の血管が浮き出ている方
○足がむくむ・痛む・だるい・重い・疲れやすいと感じる方
○足の皮膚が黒ずんで見える
○動脈硬化を予防したい方
○むくみを改善したい方
○セルライトを改善したい方
○痔核を改善したい方

ブッチャーズブルームの研究情報

【1】慢性静脈不全患者166名を対象に、ブッチャーズブルーム抽出物を1日当たり75mg 、12週間摂取させたところ、脚部及び足首周囲径や自覚症状などに改善がみられたことから、ブッチャーズブルームに慢性静脈不全予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12040966

【2】ブッチャーズブルームは長い年月、慢性静脈機能不全や痔核予防に対する漢方薬として使用されてきました。 Review
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16245442

【3】ブッチャーズブルームは血流を整えるはたらきが知られており、慢性静脈不全や浮腫やむくみ、月経前症候群、痔核、糖尿病網膜症の予防に役立つと考えられています。 Review
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11804550

【4】ブッチャーズブルームに含まれる有効成分ルスコゲニンには、白血球の遊走を抑制作用するとともに、炎症物質関連酵素シクロオキシゲナーゼのはたらきを抑制することで抗炎症作用を示すため、抗炎症作用があると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15997105

【5】ブッチャーズブルームに含まれるルスコゲニンは、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)において炎症関連物質TNF-αの産生を抑制するはたらきを持ちます。そのためブッチャーズブルームには抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20724805

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参考文献

・吉川敏一 炭田康史 最新版 医療従事者のためのサプリメント・機能性食品事典 講談社

・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社

・林真一郎監修 ハーブティーバイブル 東京堂出版

・Vanscheidt W, Jost V, Wolna P, Lücker PW, Müller A, Theurer C, Patz B, Grützner KI. 2002 “Efficacy and safety of a Butcher’s broom preparation (Ruscus aculeatus L. extract) compared to placebo in patients suffering from chronic venous insufficiency.” Arzneimittelforschung. 2002;52(4):243-50.

・Bylka W, Kornobis J. 2005 “Butcher’s Broom, in the treatment of venous insufficiency.” Pol Merkur Lekarski. 2005 Aug;19(110):234-6.

・Ruscus aculeatus (butcher’s broom). Monograph.” Altern Med Rev. 2001 Dec;6(6):608-12.

・Kou J, Sun Y, Lin Y, Cheng Z, Zheng W, Yu B, Xu Q. 2005 “Anti-inflammatory activities of aqueous extract from Radix Ophiopogon japonicus and its two constituents.” Biol Pharm Bull. 2005 Jul;28(7):1234-8.

・Song J, Kou J, Huang Y, Yu B. 2010 “Ruscogenin mainly inhibits nuclear factor-kappaB but not Akt and mitogen-activated protein kinase signaling pathways in human umbilical vein endothelial cells.” J Pharmacol Sci. 2010;113(4):409-13.

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