エゾウコギ

Siberian Ginseng 
シベリア人参  エレウテロコックス  刺五加(しごか)

エゾウコギの根や茎などには、体の活力を高めてくれる有効成分を豊富に含んでおり、抗ストレス作用や疲労回復、滋養強壮や精力強化に効果があります。有効成分であるエレウテロサイドEには、免疫細胞を活性化して免疫力を高める働きがあります。最新の研究では、女性ホルモンに似た作用をする成分が含まれていることがわかり、期待が寄せられています。

エゾウコギとは?

●基本情報
エゾウコギは、ロシアや中国の一部、日本の北海道東部などの寒暖の差が60℃以上にもなる寒冷地のみに自生しているウコギ科の落葉低木です。ウコギ科の植物には生薬として使用されているものが多数あり、その代表的なものが高麗人参(朝鮮人参)です。エゾウコギはロシアでは命の根を意味する「エレウテコロック」、中国では枝に棘(とげ)が密生することから「刺五加(しごか)」と呼ばれ、日本ではエゾ(北海道)にだけ自生することからエゾウコギという名が付きました。

●エゾウコギの歴史
エゾウコギの薬用部分は根皮であり、中国では2000年以上前から漢方薬として利用してきた歴史があります。16世紀に集大成された中国の薬学著書「本草綱目」には、「刺五加: 精気を補い、筋骨を強壮し、意志を堅固にする。長い間服用すれば、身体が軽快になり、老化を防ぐ」と記載されており、長寿の薬として紹介されています。
エゾウコギは、世界各国で注目を集めるハーブです。
日本では江戸時代に、米沢藩の上杉鷹山が各民家でエゾウコギを栽培するよう奨励したといわれています。これは、天候不順や天変地異により農作物の収穫が減って食糧が不足した場合や、劣悪な環境下でも育つエゾウコギの新芽や葉を食材とすることで乗り越えるためだったといわれています。実際にエゾウコギを食用して、飢饉を乗り切ることができたとされています。

●エゾウコギの研究
エゾウコギは旧ソ連 (ロシア)、中国を中心に研究が進められ、1960年頃の旧ソ連において、エゾウコギが人の耐久力・抵抗力を増強し、作業能率の向上や疲労回復にも役立つことが見出されました。1966年に発表された、旧ソ連アカデミーのブレフマン博士による「エレウテコロック(エゾウコギ)の薬効は薬用人参よりもすぐれている」という評価をきっかけに注目を集めました。
旧ソ連アカデミーの研究により、エゾウコギにはトリテルペノイド系[※1]の配糖体[※2]である、エレウテロサイド[※3]とイソフラキシジン[※4]が多く含まれていることがわかりました。サポニン配糖体を含む薬用人参に対し、エゾウコギには7種類の配糖体が含まれており、その薬理効果は6倍強といわれています。研究が進んでいくにつれ、エゾウコギに含まれるエレウテロサイドやイソフラキシジンなどの有効成分には、集中力や免疫力を高めたり、ストレスや疲労の回復を助ける作用、自律神経のバランスを回復したり緊張をやわらげて精神を安定させる鎮静作用などの効果があることがわかりました。
日本での研究調査が開始されたのは1973年で、北海道大学(農学部・薬学部)と道立衛生研究所を中心に行われました。北海道東部(美幌地方)に自生するエゾウコギと、ロシアや中国のものが同一植物であることが確認されました。

●エゾウコギとスポーツの関係
エゾウコギが広く世界に知られるようになったきっかけは、1980年のモスクワオリンピックです。エゾウコギを飲んで圧倒的な強さと記録をたたき出した旧ソ連の選手らが、大変な話題となりました。エゾウコギエキスを飲むことで選手の疲労が抑えられて記録が伸びたとされ、エゾウコギに含まれる成分がドーピング規定に抵触しないことから、世界中の注目を集めました。同じ1980年にイギリスの老人医学の権威であるステファン・フルダー博士が、科学雑誌「ニューサイエンティスト」に、トップアスリートへのエゾウコギの投与効果に関する論文を発表したことが、人気に拍車をかけたといわれています。
日本国内でも1990年代以降は、極度の緊張状態の中で最高のパフォーマンスが求められるアスリートや、体力の消耗の激しい状態の中で集中力の持続が求められる宇宙飛行士などに愛用されるようになりました。エゾウコギから抽出したエキスを濃縮したものを、液状、顆粒、粒状、またお茶などに加工した商品が登場したことで、手軽に摂取できることも相まってエゾウコギが注目されるようになりました。

[※1:トリテルペノイド系とは、一定の特徴的な構造をもつ天然化合物の総称です。]
[※2:配糖体とは、糖と様々な種類の成分が結合した有機化合物のことです。生物界に広く分布し,植物色素であるアントシアニンやフラボン類などがあげられます。]
[※3:エレウテロサイドとは、フェノール配糖体の一つです。ストレスなどに効果的であるといわれています。]
[※4:イソフラキシジンとは、フェノール性化合物です。抗炎症作用があるといわれています。]

エゾウコギの効果

●免疫力を高める効果
エゾウコギの主成分であるエレウテロサイドEには、脳下垂体から脳内モルヒネといわれるβ-エンドルフィンの分泌を促進する作用があります。このβ-エンドルフィン[※5]は、免疫機能に大きく関係しています。β-エンドルフィンがNK細胞に結合することにより、NK細胞[※6]が活性化されます。NK細胞は、健康維持に大きな役割を担っており、細胞の活性はストレスによって容易に低下して免疫力も落ちてしまうため、様々な病気にかかりやすくなってしまいます。β-エンドルフィンの働きによりNK細胞の働きが活発になるため、病気予防につながります。【5】

●疲労回復効果
肉体的な痛みや疲労が蓄積すると、脳の下垂体部分からβ-エンドルフィンという物質が分泌されます。エゾウコギの根に含まれるエレウテロサイドEという成分には、このβ-エンドルフィンの血中濃度を上昇させる作用があります。エゾウコギを運動前に摂取しておくとβ-エンドルフィンの分泌が促され、運動による疲労やストレスが早期に軽減されます。
これにより体の回復力が高まり、持久力や集中力を保つことが可能となるため、記録やトレーニング効果が向上するといった滋養強壮効果が得られることがわかっています。疲れにくい強い身体となることによって、風邪や食欲不振などになりにくく、アレルギー体質も改善する効果があります。【7】

●生活習慣病を予防する効果
エゾウコギの有効成分である、エレウテロサイドBやイソフラキシジンには、白血球や血小板の粘着、凝集を抑えて血流を良くする働きがあります。これにより、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、頭痛、肩こり、冷え症の予防に役立ちます。【2】【3】【4】【6】

●更年期障害を改善する効果
更年期の不快症状は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下することで起こります。エゾウコギに含まれるピノレジノール・ジグロコサイドという物質が、体内で女性ホルモンに似た作用をするエンテロラクトンという成分に変わることから、乳ガンや更年期障害の治療・予防効果が期待できるとされています。【1】

[※5:β-エンドルフィンとは、脳内モルヒネ、あるいはハピネスホルモン(幸福ホルモン)といわれ、肉体的・精神的な苦痛やストレスを抑える働きを持つ物質です。その鎮痛作用はモルヒネの65倍もあるといわれています。]
[※6: NK(ナチュラルキラー)細胞とは、リンパ球に含まれる免疫細胞のひとつで、生まれつき(ナチュラル)外敵を殺傷する(キラー)能力を備えています。ガン細胞やウイルス感染細胞などの異常細胞を発見して退治してくれます。]

 

エゾウコギは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○免疫力を向上させたい方
○ストレスをやわらげたい方
○運動時の疲労を回復したい方
○生活習慣病を予防したい方
○更年期障害でお悩みの方

エゾウコギの研究情報

【1】骨減少症または骨粗鬆症の閉経後女性81名 (試験群41名、65歳以上、韓国) を対象とした無作為化比較試験において、カルシウム (500 mg/日) 単独またはエゾウコギ抽出物 (3 g/日) との組み合わせで6ヶ月間併用摂取させたところ、骨塩量に有意な差は認められませんでした。しかし、併用摂取した場合、血清オステオカルシン(骨代謝:骨形成にかかわるマーカー)濃度が上昇しました。このことから、エゾウコギ抽出物は、骨密度を高めるまでには至らないまでも、骨形成をサポートする可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19452124

【2】エゾウコギから抽出したポリサッカライド(ASP)と糖尿病治療薬メトフォルミンをアロキサン誘発糖尿病ラットへ与えたところ、メトフォルミン単独投与よりも糖尿病の症状、生体マーカー(血糖値、トリグリセリド、総コレステロール、脂質肝酸化、AST・ALT・ALP<肝臓のバイオマーカー>、生体内抗酸化酵素<SOD、GPx>)の有意な改善が認められました。これらのことから、エゾウコギ抽出物の投与は、糖尿病治療をサポートする働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22326821

【3】近年の研究から、エゾウコギ抽出物は、in vitroおよびin vivoにおいて抗ストレス、抗潰瘍、抗放射線、抗酸化作用、抗炎症作用、肝保護作用を有することが明らかになっています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21434569

【4】エゾウコギ抽出物(ASE)のαアミラーゼおよびαグルコシダーゼ活性に対する作用を検討するため、Caco2(ヒト結腸鴈細胞)へグルコースとともに投与しました。また、in vivoでは、糖の生体内移行を調べるため、ASEをⅡ型糖尿病モデルマウスへ経口投与しました。ASE投与は、αグルコシダーゼ活性を1/13までに抑制しました。またⅡ型糖尿病マウスへ3日間ASEを投与した結果、コントロールと比べてスクロース添加30分後の血漿グルクース濃度がインスリン抵抗性に影響することなく有意に減少していました。これらのことから、ASEはαグルコシダーゼの働きを抑制するため、糖尿病改善のための機能性食品であると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20713144

【5】エゾウコギ可溶性抽出物(GF-AS)糖タンパク画分(EN-SP)が免疫力を高め、ガン転移の抑制するかどうかについて調べました。GF-ASは、脾細胞を増殖し、さらにマクロファージに対し様々なサイトカイン(IL-1β、TNFα、IL12、IFNγ)の産生を促しました。GF-ASおよびEN-SPはマウス脾細胞の増殖を刺激し、ガン転移を抑制しました。これらの結果から、GF-ASおよびEN-SPは、免疫力を高め、ガン細胞の転移を抑制する働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15022725

【6】エゾウコギフェノール抽出物から精製されたシリンガレシノール‐O‐β‐グルコシド(SR)がヒト骨膜腫細胞SW982の炎症を抑制できるかどうかについて調べました。その結果、SRは低濃度で炎症性物質のプロスタグランジンの産生、IL-1,IL-6、COX2およびMMP1のmRNAの発現を抑制しました。またAP-1やNF-κβのDNA結合を防ぎました。これらの結果から、SRは、炎症を防ぎ、鴈細胞の増殖を抑制する働きがあると示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17561367

【7】抗疲労に対するエゾウコギ根抽出物 (EUE) の機能性について調べるため、強制水泳負荷を実施しました。マウスを用いた強制水泳負荷後の水泳耐久時間測定試験では、EUE 500mg/kgの2週間投与により対照群と比較して水泳耐久時間の有意な延長がみられ, EUEの抗疲労作用による可能性が示唆されました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10014222950

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参考文献

・石原 茂正 機能性ハーブの生理活性 (株)常盤植物化学研究所

・蒲原聖可 サプリメント事典 平凡社

・原山建郎 、久郷晴彦 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・Hwang YC, Jeong IK, Ahn KJ, Chung HY. (2009) “The effects of Acanthopanax senticosus extract on bone turnover and bone mineral density in Korean postmenopausal women.” J Bone Miner Metab. 2009;27(5):584-90. Epub 2009 May 20.・Fu J, Fu J, Yuan J, Zhang N, Gao B, Fu G, Tu Y, Zhang Y. (2012) “Anti-diabetic activities of Acanthopanax senticosus polysaccharide (ASP) in combination with metformin.” Int J Biol Macromol. 2012 Apr 1;50(3):619-23. Epub 2012 Feb 3.

・Huang L, Zhao H, Huang B, Zheng C, Peng W, Qin L. (2011) “Acanthopanax senticosus: review of botany, chemistry and pharmacology.” Pharmazie. 2011 Feb;66(2):83-97.

・Watanabe K, Kamata K, Sato J, Takahashi T. (2010) “Fundamental studies on the inhibitory action of Acanthopanax senticosus Harms on glucose absorption.” J Ethnopharmacol. 2010 Oct 28;132(1):193-9. Epub 2010 Aug 14.

・Ha ES, Hwang SH, Shin KS, Yu KW, Lee KH, Choi JS, Park WM, Yoon TJ. (2004) “Anti-metastatic activity of glycoprotein fractionated from Acanthopanax senticosus, involvement of NK-cell and macrophage activation.” Arch Pharm Res. 2004 Feb;27(2):217-24.

・Yamazaki T, Shimosaka S, Sasaki H, Matsumura T, Tukiyama T, Tokiwa T. (2007) “(+)-Syringaresinol-di-O-beta-D-glucoside, a phenolic compound from Acanthopanax senticosus Harms, suppresses proinflammatory mediators in SW982 human synovial sarcoma cells by inhibiting activating protein-1 and/or nuclear factor-kappaB activities.” Toxicol In Vitro. 2007 Dec;21(8):1530-7. Epub 2007 May 5.

・MIZOGUCHI Toru、KATO Yoko、KUBOTA Hitoshi、TAKEKOSHI Hideo、TOYOSHI Tohru、YAMAZAKI Noriyuki (2004) “Physiological Effects of Ezo Ukogi (Acanthopanax senticosus Harms) Root Extract in Experimental Animals” Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science 57(6), 257-263, 2004-12-10

・吉川敏一 炭田康史 最新版 医療従事者のためのサプリメント・機能性食品事典 講談社

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・日経ヘルス サプリメント大事典 日経BP社

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