カリウム

Kalium
K  potassium

カリウムは、ナトリウムの排出を促す成分で様々な食品に多く含まれているミネラルです。
食事から摂取することは難しくない成分ですが、食生活の変化やナトリウムの摂取量の増加などが原因となり、近年不足しがちなミネラルとして重要視されています。

カリウムとは

●基本情報
カリウムはナトリウムと拮抗した関係にあるミネラルの一種です。
生物界に広く分布しているミネラルで、生命を維持する上で欠かすことのできない必須栄養素です。
カリウムは主にリン酸塩、タンパク結合物としてすべての細胞の中に存在し、体液中には少なく細胞内に多く存在しています。
細胞外液に多く含まれるナトリウムと異なり、カリウムは98%が細胞内に存在します。ナトリウムが体内に過剰に存在すると、カリウムが働き体外への排泄を促します。この働きにより、多少ナトリウムを摂取し過ぎても体内は一定のナトリウム濃度を保つことができるのです。
カリウムは植物の灰に多く含まれており、名前の由来はアラビア語で灰を意味するKalijanです。カリウムは木を燃やした灰からも得られており、植物に不可欠の栄養素で、植物の肥料にも多く含まれています。

●カリウムの歴史
日本には厚生労働省によって「日本人の栄養摂取基準」[※1]というものが定められています。
この基準が2005年度に新たに改正された際に日本人がこれまで以上に摂るべき4つの栄養素が新たに追加されました。
その4つの栄養素とはカルシウム、食物繊維、DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸そしてカリウムです。
このカリウムは、2004年までは日本人は通常の食事で十分に摂ることができていると考えられてきたため、明確な摂取目安量が定められていませんでした。
しかし、近年の日本人の食生活の変化やナトリウムの過剰摂取などが問題となり、それが高血圧や脳卒中につながっていることがわかってきました。厚生労働省はこのような状況を改善するために「生活習慣病予防のために、日本人はもっとカリウムを摂取すべき」と明記し、カリウムの目安量を設定したのです。

●カリウムの摂取状況
国民健康・栄養調査ではカリウムの摂取量は平成21年では2251mg、平成22年では2200mg、平成23年では2189mgと年々減少しています。
しかし、私たち現代人は加工食品の利用などにより食生活に塩分を摂り過ぎる傾向があります。加工食品は製造行程や保存性など様々な理由により、通常の食品よりも必ず塩分量が多いといえます。
このような食生活の変化により、日本人はますますカリウムの摂取を意識しなくてはならなくなったと考えられます。
カリウムの摂取量は成人男子で2500mg、成人女子で2000mgが目安といわれていますが、高血圧の予防を目的とする場合は3500mgを目標として摂取するように推奨されています。

●体内でのカリウムの代謝
体内に吸収されたカリウムは一定の濃度を保つために、同量が尿や汗などで体外に排出されます。7~9割と大部分が尿として排出され、残り1~3割は便や汗として排出されます。そのため、利尿剤を使用している方や下痢気味の方、汗をかきやすい方などはカリウム不足に気をつける必要があります。
アルコールやコーヒーなども利尿を促すため、頻繁に飲む方はカリウムが不足しやすいといわれています。

<豆知識>カリウムを摂取するための工夫
熱や水に弱いため調理で失われやすく、特に煮た場合の損失は約30%といわれています。
ゆで汁を捨てないスープ料理や鍋料理がおすすめです。
日常的に生野菜を食べることや減塩を心がけるようにすることが望ましいといえます。

[※1:日本人の食事摂取基準とは、厚生労働省が健康な個人または集団を対象として、国民の健康維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものです。]

カリウムの効果

●高血圧を予防する効果
カリウムとナトリウムは互いに拮抗して働いています。ナトリウムは体に必要なミネラルですが、摂り過ぎにより高血圧を引き起こす原因となります。体内のカリウムは腎臓の働きで汗や尿として排出されます。カリウムが排出される際に同じ量のナトリウムも排出されるため、バランスの良い食事をしていれば多少ナトリウムの摂取量が増えても摂り過ぎにはなりません。
しかし、偏った食事をすることによりナトリウムの摂取量のみが過剰になってしまったり、アルコールの飲み過ぎなどによりカリウムが不足してしまったりすると、高血圧を引き起こす危険性が高まります。
血中のナトリウムが増加することにより細胞から水分が出て血液が薄まります。それが原因となり血液量が増え、血液を送り出す強い力が必要となります。すなわち血圧が上がり、高血圧となってしまいます。
カリウムを必要量摂ることによりナトリウムの排出を促し、高血圧になるリスクを軽減する効果があります。【1】

●むくみを予防・改善する効果
人間の体内でカリウムは、カルシウムとリンに続いて3番目に多く存在し、細胞内液に多く存在しています。
ナトリウムは、細胞の外側に大部分が存在し、ナトリウムとカリウムの濃度は一定のバランスで保たれています。この一定のバランスを保つための「ナトリウムカリウムポンプ」といわれるものが、細胞膜に存在します。
ナトリウムの過剰な摂取、またはカリウムの不足などで、カリウムとナトリウムのバランスが調整できなくなると、細胞内のナトリウムの濃度を下げるために水分を取り入れます。血管の細胞でこのようなことが起こると、血管壁が水分で膨れるため血圧が高くなり、顔では組織液やリンパ液が薄められ、むくみとなって現れます。
このため、カリウムを摂取することによりむくみの解消につながるといえます。【2】

●筋肉を正常に保つ効果
カリウムは、筋肉の収縮に関わっています。
筋の収縮はナトリウムとカリウムが筋肉細胞へ働きかけることにより始まります。筋の収縮は神経伝達物質であるアセチルコリンが、筋肉細胞と神経末端の間にあるシナプス[※2]に放出され、筋肉細胞がアセチルコリンを受け取ると、ナトリウムとカリウムによる電位変化が起こります。この電位の変化により、ナトリウムイオンチャネル[※3]が開き、ナトリウムイオンが筋肉細胞に流れ込みます。この筋活動電位が発生し、筋肉が収縮します。
このため、ナトリウムとカリウムをバランス良く摂ることは筋肉を正常に収縮することにつながり、筋肉を正常に保つ効果があるといえます。

[※2:シナプスとは、脳内の神経細胞の間で神経伝達物質を信号としてやり取りしている部分のことです。]
[※3:ナトリウムイオンチャネルとは、ナトリウムイオンを通過させる経路のことです。]

カリウムは食事やサプリメントで摂取できます

カリウムを含む食品

○ヒジキ
○ノリ
○アボカド
○バナナ
○サトイモ

こんな方におすすめ

○高血圧を予防したい方
○むくみが気になる方
○筋肉の調子を整えたい方

カリウムの研究情報

【1】高血圧患者を対象とした試験33件(2609名)によると、カリウムを摂取すると、最高血圧で1.9~4.3mmHg 最低血圧で0.5~3.5mmHg 低下したことから、カリウムは高血圧予防に役立つと考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9168293

【2】ネフローゼ症候群患者における尿中のカリウム濃度と浮腫(むくみ)の発症に関係性があると考えられます。腎臓では体液の濃度が調節されており、カリウムは水分調節機能を持っています。このことから、腎臓機能不全によるカリウム濃度の異常とむくみの関係性が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21422677

【3】カリウムを350mg 以上含み、ナトリウムおよびコレステロール、飽和脂肪酸が少ない食事を摂っていると、高血圧と脳卒中のリスクが緩和することから、カリウムには高血圧ならびに脳卒中予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11411758

【4】慢性関節リウマチ患者32名を対象に、塩化カリウムを1日あたり6,000mg 含むグレープジュースを28日間摂取させたところ、痛みの自己評価 (VAS) と症状の改善が認められたことから、カリウムはリウマチならびに関節痛予防効果をもつことが期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18468955

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参考文献

・中嶋 洋子 著、阿部 芳子、蒲原 聖可監修 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・吉田企世子 松田早苗 あたらしい栄養学 高橋書店

・北岡正三郎 入門栄養学 培風館

・Whelton PK, He J, Cutler JA, Brancati FL, Appel LJ, Follmann D, Klag MJ. 1997 ” Effects of oral potassium on blood pressure. Meta-analysis of randomized controlled clinical trials. ” JAMA. 1997 May 28;277(20):1624-32.

・Matsumoto H, Miyaoka Y, Okada T, Nagaoka Y, Wada T, Gondo A, Esaki S, Hayashi A, Nakao T. 2011 ” Ratio of urinary potassium to urinary sodium and the potassium and edema status in nephrotic syndrome.” Intern Med. 2011;50(6):551-5.

・McCarron DA, Reusser ME. 2001 ” Are low intakes of calcium and potassium important causes of cardiovascular disease?” Am J Hypertens. 2001 Jun;14(6 Pt 2):206S-212S.

・Rastmanesh R, Abargouei AS, Shadman Z, Ebrahimi AA, Weber CE. 2008 ” A pilot study of potassium supplementation in the treatment of hypokalemic patients with rheumatoid arthritis: a randomized, double-blinded, placebo-controlled trial.” J Pain. 2008 Aug;9(8):722-31.

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