ビタミンB12

シアノコバラミン
vitamin B12 , cyanocobalamin

ビタミンB12は水溶性のビタミンB群の一種で、ミネラルの一種のコバルトを含むため、コバラミンとも呼ばれます。悪性貧血の予防や神経の働きに不可欠な栄養素で、DNAやたんぱく質の合成の調節や補酵素として様々な代謝に関わっています。動物性食品に含まれ、体内では肝臓に貯蔵されています。

ビタミンB12とは

●基本情報
ビタミンB12は水溶性のビタミンB群の一種で、化学構造の中心部にミネラルのひとつであるコバルトを含み暗赤色をしているため、「赤いビタミン」や「コバラミン」と呼ばれます。また、赤血球を生成する時に働くため「造血のビタミン」とも呼ばれます。
ビタミンB12はコバルトを含むビタミンの総称で、アデノシルコバラミン、メチルコバラミン、スルフィトコバラミン、ヒドロキシコバラミン、シアノコバラミンがあります。これらのコバラミンの中で最も効率良く利用されるのは、シアノコバラミンとヒドロキシコバラミンです。ビタミンB12は体内で、メチルコバラミンとアデノシルコバラミンに変換され様々な代謝 [※1]に関わる補酵素 [※2]として働いています。
ビタミンB12は弱酸性に対しては安定ですが、強酸性、アルカリ性では光によって分解されます。また、光や空気によって酸化 [※3]されるため、食品を保存する時には密閉する必要があります。水溶性ですが、熱には比較的強い性質を持っています。
ビタミンB12の体内での必要量はごく微量ですが、人間の体内には、肝臓に数年分のビタミンB12が貯蔵されています。
また、ビタミンB12は腸内細菌によってつくられ、基本的に動物性食品にしか含まれません。ただし例外として、もやしや発酵食品である納豆などにも含まれています。

●ビタミンB12の歴史
ビタミンB12は貧血と深い関わりがあります。貧血の治療には古くから鉄剤が用いられ、それはギリシア時代が始まりともいわれています。
貧血の多くはが不足することによって起こりますが、中には鉄の摂取を増やしても改善しない貧血があります。このような貧血の場合は、長年治療法が見つからず問題となっていました。
そんな中、牛乳に含まれる成分が悪性貧血の症状を改善するとして研究が進められ、1948年にアメリカのフォルカースらによってビタミンB12が分離・発見されました。この発見により、問題となっていた貧血の原因がビタミンB12不足によるものとわかり、現在では治療は容易となっています。

●ビタミンB12の働き
ビタミンB12は細胞が分裂する時に不可欠な補酵素で、血液中の赤血球と結合し、酸素を運ぶ役割をしているヘモグロビンの合成を助ける効果があります。赤血球は約4ヵ月で寿命が尽きるため、骨髄では常に新しい赤血球がつくられています。ビタミンB12は葉酸と協力し、赤血球をつくる働きを助けています。

また、ビタミンB12には細胞の遺伝情報が詰まった核酸 (DNARNA)や、アミノ酸たんぱく質の合成を助ける働きがあります。
脳から指令を伝える神経が正常に機能するためには、いくつものビタミンB群が関わっています。筋肉や神経を動かすエネルギーをつくるのがビタミンB1、神経伝達物質の生成に働くのがビタミンB6となっています。

ビタミンB12には脂質の合成や修復をする働きがあり、神経細胞内の表面にある脂質膜の合成にも関わっています。ビタミンB12は脂肪成分と馴染みやすい構造を持っているので、脳に簡単に入り込むことができます。そして汚れが詰まっている部分は洗い流し、切れている部分はつなぎ合わせることで、健康的なもとの姿に復元させる働きがあります。

●目薬に含まれるビタミンB12の働き
ビタミンB12には目のピント調節能力をサポートし、目の疲れを改善する働きがあります。
また、細胞の分裂などに欠かせない核酸の合成に関わり、神経機能の維持・改善に努めます。ビタミンB12は赤い成分のため、一般的にビタミンB12が入っている目薬は赤色の薬液になっています。

●ビタミンB12の欠乏症
ビタミンB12の不足によって起こる代表的な症状は、悪性貧血です。悪性貧血は、舌が赤く肥大し炎症を起こしたり、下痢、息切れ、めまい、動悸、だるさ、食欲不振などが見られます。
また、神経系の働きが悪化して手足のしびれや痛み、集中力の低下、物忘れなどの神経障害が起こります。これらはビタミンB12の投与で回復します。
そのほか、ビタミンB12が不足すると血液中のホモシステイン [※4]というアミノ酸の量が増え、動脈硬化 [※5]の引き金となり、生活習慣病 [※6]のリスクを高めます。

ビタミンB12は人間の体内では腸内細菌によってつくられ、肝臓にも蓄えられているため、不足することはほとんどありません。
ビタミンB12の吸収は小腸で行われます。ビタミンB12は食品中ではたんぱく質と結合しており、胃の中で消化酵素であるペプシンによって切り離されます。切り離されたビタミンB12が吸収されるためには、胃の細胞から分泌される内因子という糖たんぱく質と結合する必要があります。内因子と結合することによって、ビタミンB12は小腸で吸収されます。このため、胃の切除経験がある方や、胃が萎縮した高齢者の方、胃粘膜に病変がある方、小腸に吸収不全のある方は、内因子が不足していたり吸収する場所がないため、ビタミンB12が不足しやすく、ビタミンB12を静脈内に直接注射したり、サプリメントで補うといった対策がとられています。
また、菜食主義者 (ベジタリアン)もビタミンB12が不足しやすくなります。これはビタミンB12が、基本的に動物性食品にしか含まれていないためです。この場合には、味噌や納豆などの発酵食品から摂取する方法もあります。

ビタミンB12は、余分に摂取しても吸収に必要な内因子の分泌量の範囲内でしか吸収されないため、過剰症の心配はありません。

ビタミンB12の摂取の基準としては、表の通りです。

<豆知識> コバルトとは
ビタミンB12は、その構造の中心にコバルトを含んでいます。コバルトは、磁石の原料や、虫歯の治療に用いられる合金などに使われる金属です。コバルトはビタミンB12の中では赤い色となりますが、ガラスに混ぜると青い色となりこの色はコバルトブルーといわれます。
この青い色を活かして、陶磁器の顔料などとしても使われています。

[※1:代謝とは、生体内で物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※2:補酵素とは、消化や代謝で働く酵素を助ける役割をするものです。]
[※3:酸化とは、体内で活性酸素が発生し、鉄がさびたり切ったりんごが茶色くなるような現象のことです。]
[※4:ホモシステインとは、体内でつくられるアミノ酸のひとつで、必須アミノ酸を代謝する時にできる物質です。]
[※5:動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質がたまって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことです。血液がうまく流れなくなることで心臓や血管などの様々な病気の原因となります。]
[※6:生活習慣病とは、病気の発症に、日頃の生活習慣が深く関わっているとされる病気の総称です。糖尿病、脳卒中、脂質異常症、心臓病、高血圧、肥満などが挙げられます。]

ビタミンB12の効果

●貧血を予防する効果
赤血球をつくる働きを持つビタミンB12と葉酸はどちらも重要で、どちらか一方でも不足すると、細胞分裂や増殖がうまくいかなくなり、貧血が起こります。赤血球のもととなる赤芽球 [※7]が異常に巨大化して (巨赤芽球)赤血球まで成熟できずに死んでしまうことで、正常な赤血球が減る病気を、巨赤芽球性貧血といいます。巨赤芽球性貧血は、鉄の不足が原因の貧血と区別して、悪性貧血とも呼ばれています。
現在では不足しているビタミンB12や葉酸を補給すれば改善することがわかっており、悪性の病気ではありません。

●神経機能を正常に保つ効果
ビタミンB12 は、核酸やアミノ酸、たんぱく質の合成を助けることによって、神経細胞の機能を正常に保つ効果があります。DNAの合成には葉酸の働きが不可欠ですが、葉酸がしっかりと働くためにはビタミンB12の働きが必要です。
また、末梢神経が傷つくと、肩こりや腰痛の原因となることがあります。ビタミンB12は末梢神経の傷を治す働きがあり、整形外科では肩こり、腰痛、手足のしびれ、神経痛の治療薬としてビタミンB12が処方されています。

ある研究において、アルツハイマー型認知症の患者の脳では、ビタミンB12の量が健康な人の4分の1から6分の1と少ないという結果が報告がされました。このことからも、ビタミンB12は脳の機能を正常に維持するために重要な役割を担っていると考えられます。そして、末梢神経の障害を修復する作用があることから、ビタミンB12はアルツハイマー型認知症にも有効ではないかと考えられ、研究がすすめられています。【5】【7】

●睡眠を促す効果
最近の研究により、ビタミンB12は睡眠・覚醒のリズムに関わっていることがわかってきました。不規則な生活が続くと睡眠・覚醒のリズムが乱れます。ビタミンB12を大量に摂ると、このリズムの正常化に役立つと考えられています。【1】

[※7:赤芽球とは、骨髄の中に存在する血液細胞のことです。赤芽球が細胞分裂を繰り返すことによって赤血球となります。]

●眼精疲労に対するビタミンB12の効果
目薬に含まれるビタミンB12には目のピント機能に関係する筋肉に作用し、眼精疲労を改善する働きがあります。
眼精疲労とは「目の疲れを放っておくと様々な症状を引き起こし、それが寝ても治らないほど酷いもの」を指します。具体的な症状は「ぼやける、かすむ、目が痛い、重い、しょぼしょぼする。」体の症状としては「肩こり、倦怠感、頭痛、めまい、吐き気」などがあります。
眼精疲労を起こす原因の一つが「毛様体筋」と呼ばれる筋肉が酷使される事です。
毛様体筋は目のピント調節に関わる筋肉です。パソコン作業のように近くを長時間見続けると緊張状態が続き筋肉疲労を起こします。ビタミンB12はこの様な筋肉の疲労に作用し、眼精疲労を改善します。

食事やサプリメントで摂取できます

ビタミンB12はこんな食品に含まれています

○魚介類:かつお、さんま、のり、すじこ、貝類など
○肉類:レバーなど
○乳製品:チーズなど
○その他:もやし、納豆など (植物性食品は例外)

こんな方におすすめ

○貧血でお悩みの方
○生活習慣病を予防したい方
○妊娠中・授乳中の方
○睡眠でお悩みの方

ビタミンB12の研究情報

【1】睡眠障害少年少女に、ビタミンB12 を1日当たり3000μg 摂取させたところ、両者の睡眠障害の症状の緩和が改善されたことから、ビタミンB12 が不眠症改善効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1759094

【2】含硫アミノ酸のホモシステインの血中濃度が上がると、心臓病のリスクが高まることが知られています。動脈疾患120名男性・42名女性に対し、ビタミンB6、ビタミンB12を摂取させたところ、血中ホモシステイン濃度が減少したことから、ビタミンB12が動脈硬化予防効果や心臓保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7670943

【3】高ホモシステイン男性患者(100例)に対して、ビタミン類の血中ホモシステイン濃度に対する影響を検討しました。葉酸摂取群20名、ビタミンB12摂取(0.4mg)20名、ビタミンB6 摂取(10mg)20名、ビタミンB6・12、葉酸摂取群20名にわけて、6週間摂取させたところ、ビタミンB12群では血漿中のホモシステイン濃度では14.8%減少し、3種類のビタミン摂取群では49.8%減少しました。このことからビタミンB12を含むビタミンB群が心臓病予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7931701

【4】冠状動脈疾患又は大動脈弁狭窄症患者3096名 (女性20.5%、平均61.7歳) を対象に、葉酸とビタミンB12、ビタミン B6 (40 mg/日) を38.4ヶ月間摂取させたところ、血中ホモシステイン濃度が低下したことから、ビタミンB12が動脈硬化予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18714059

【5】心労を受けた高齢者900名 (試験群447名、平均65.92±4.30歳、オーストラリア) を対象に、1日に葉酸400μg、ビタミンB12 100μg を含むサプリメントを2年間摂取させたところ、認知機能の評価  (TICS-M total、TICS-M immediate、TICS-M delayed recall) で改善が認められたことから、葉酸およびビタミンB12が認知症予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22170358

【6】心疾患もしくは心疾患リスクのある女性5,205名 (平均62.6歳、試験群2,607名) を対象に、1 日に葉酸を2.5mg、ビタミンB6を50 mg、ビタミンB12を1 mg、平均7.3年間摂取させたところ、加齢性黄斑変性の発症リスクが低下したことから、ビタミンB12 が眼疾患予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19237716

【7】1993年~2003年のあいだに1648名に対してビタミンB12の濃度および認知機能について検討しました。認知機能が低い被験者ほどビタミンB12の血中濃度が低いことから、認知機能の保護に対して、ビタミンB12の摂取は大切だと考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17991650

もっと見る 閉じる

参考文献

・中村丁次 最新版 からだに効く栄養成分バイブル  主婦と生活社

・上西一弘 栄養素の通になる 第2版  女子栄養大学出版部

・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版社

・Ohta T, Ando K, Iwata T, Ozaki N, Kayukawa Y, Terashima M, Okada T, Kasahara Y. (1991) “Treatment of persistent sleep-wake schedule disorders in adolescents with methylcobalamin (vitamin B12).” Sleep. 1991 Oct;14(5):414-8.

・Hopkins PN, Wu LL, Wu J, Hunt SC, James BC, Vincent GM, Williams RR. (1995) “Higher plasma homocyst(e)ine and increased susceptibility to adverse effects of low folate in early familial coronary artery disease.” Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1995 Sep;15(9):1314-20.

・Ubbink JB, Vermaak WJ, van der Merwe A, Becker PJ, Delport R, Potgieter HC. (1994) “Vitamin requirements for the treatment of hyperhomocysteinemia in humans.” J Nutr. 1994 Oct;124(10):1927-33.

・Ebbing M, Bleie Ø, Ueland PM, Nordrehaug JE, Nilsen DW, Vollset SE, Refsum H, Pedersen EK, Nygård O. (2008) “Mortality and cardiovascular events in patients treated with homocysteine-lowering B vitamins after coronary angiography: a randomized controlled trial.” JAMA. 2008 Aug 20;300(7):795-804.

・Walker JG, Batterham PJ, Mackinnon AJ, Jorm AF, Hickie I, Fenech M, Kljakovic M, Crisp D, Christensen H. (2012) “Oral folic acid and vitamin B-12 supplementation to prevent cognitive decline in community-dwelling older adults with depressive symptoms–the Beyond Ageing Project: a randomized controlled trial.” Am J Clin Nutr. 2012 Jan;95(1):194-203. Epub 2011 Dec 14.

・Christen WG, Glynn RJ, Chew EY, Albert CM, Manson JE. (2009) “Folic acid, pyridoxine, and cyanocobalamin combination treatment and age-related macular degeneration in women: the Women’s Antioxidant and Folic Acid Cardiovascular Study.” Arch Intern Med. 2009 Feb 23;169(4):335-41.

・Clarke R, Birks J, Nexo E, Ueland PM, Schneede J, Scott J, Molloy A, Evans JG. (2007) “Low vitamin B-12 status and risk of cognitive decline in older adults.” Am J Clin Nutr. 2007 Nov;86(5):1384-91.

・原山建朗 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・井上正子 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・中嶋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・本多京子 食の医学館 小学館

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ